「やむを得ない」
2015年10月19日
「やむを得ない事情で、欠席させていただきます」というときの「やむを得ない」だが、この語も声に出して言うときにかなり揺れのある語である。
恥を忍んで言うと、私自身も小学生のときに「やもおえない」と作文に書いて母親に笑われたことがある。
実際にどんな揺れが見られるのかというと、「やむおえない」「やもうえない」などである。「やむおえない」は語構成を「やむ」+「おえない」からなる語だと勝手に解釈して、「おえない」を「終えない」「負えない」「追えない」などと書かれることもあるようだ。
さらには「を」が落ちてしまった「やむえない」も見かける。驚いたことには、小学生の私が間違って使っていた「やもおえない」も、インターネットで検索するとわずかではあるがヒットする。
なんと誤用のバリエーションが多い語なのかと思うのだが、感心してばかりもいられない。
ただ、最近のパソコンのワープロソフトはとても親切なので、さすがに「やもおえない」は反応してくれないが、「やむおえない」「やもうえない」と入力すると《「やむをえない」の誤り》であると親切に教えてくれる。だがそれはワープロソフトだからできることで、国語辞典ではたとえ参照見出しとしてであっても、「やむおえない」「やもうえない」を立項することはできない。「やむおえない」「やもうえない」だと思い込んでいる人は、辞書を引いてその語が辞書に載ってないと知るまでは、自分が間違って覚えていたことに気づかないわけで、悔しいが辞書の限界を感じる。ただし電子辞書の場合は検索キーに誤用でも引けるように処理を施しておけば「やむを得ない」に誘導することは可能なのだが。
「やむを得ない」の「やむ」は「止む・已む」で、今まで続いてきたことがそこで終わりになるという意味である。「得ない」はできないという意味なので、「やむを得ない」で、とどまることができない、さらには、しかたがない、しようがない、そうするより他に手だてがないという意味になる。不満足ではあるがあきらめるほかはない、望まないことを消極的に受け入れるというニュアンスのある語だと思う。
類語の「仕方がない」のほうがふつうに使われ、言い間違えることもないとは思うのだが、あえて「やむをえない」を使いたいというのなら、語形をしっかり確かめてからにすべきであろう。
恥を忍んで言うと、私自身も小学生のときに「やもおえない」と作文に書いて母親に笑われたことがある。
実際にどんな揺れが見られるのかというと、「やむおえない」「やもうえない」などである。「やむおえない」は語構成を「やむ」+「おえない」からなる語だと勝手に解釈して、「おえない」を「終えない」「負えない」「追えない」などと書かれることもあるようだ。
さらには「を」が落ちてしまった「やむえない」も見かける。驚いたことには、小学生の私が間違って使っていた「やもおえない」も、インターネットで検索するとわずかではあるがヒットする。
なんと誤用のバリエーションが多い語なのかと思うのだが、感心してばかりもいられない。
ただ、最近のパソコンのワープロソフトはとても親切なので、さすがに「やもおえない」は反応してくれないが、「やむおえない」「やもうえない」と入力すると《「やむをえない」の誤り》であると親切に教えてくれる。だがそれはワープロソフトだからできることで、国語辞典ではたとえ参照見出しとしてであっても、「やむおえない」「やもうえない」を立項することはできない。「やむおえない」「やもうえない」だと思い込んでいる人は、辞書を引いてその語が辞書に載ってないと知るまでは、自分が間違って覚えていたことに気づかないわけで、悔しいが辞書の限界を感じる。ただし電子辞書の場合は検索キーに誤用でも引けるように処理を施しておけば「やむを得ない」に誘導することは可能なのだが。
「やむを得ない」の「やむ」は「止む・已む」で、今まで続いてきたことがそこで終わりになるという意味である。「得ない」はできないという意味なので、「やむを得ない」で、とどまることができない、さらには、しかたがない、しようがない、そうするより他に手だてがないという意味になる。不満足ではあるがあきらめるほかはない、望まないことを消極的に受け入れるというニュアンスのある語だと思う。
類語の「仕方がない」のほうがふつうに使われ、言い間違えることもないとは思うのだが、あえて「やむをえない」を使いたいというのなら、語形をしっかり確かめてからにすべきであろう。
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