日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第307回
「こわっぱ」

 NHKの大河ドラマ『真田丸』で使われたことばが話題になっているらしい。ご存じの方も大勢いらっしゃるであろう、「黙れ、こわっぱ」というやつである。
 西村雅彦さん演じる室賀正武(むろがまさたけ)という信濃の武将が、真田信繁(幸村)の兄である大泉洋さん演じる真田信之に向かって、信之が軍議の場で何か発言をすると、そう怒鳴りつけるのである。西村さんの言い方と、そのときの大泉さんの表情が何ともおかしいのである。
 「こわっぱ」とは、子ども、または若輩者をののしっていう語で、若造といった意味である。「こわらわ(小童)」の変化した語で、「こわらわ」とは幼い子ども、小さな子どものことである。
 「わらは(童)」は、まだ元服していない、10歳前後の子どもを言う。なぜそれくらいの年齢の子どもを「わらわ」と呼ぶのかはよくわかっていないのだが、この年代の子どもは髪を束ねないで下げ垂らした髪型をしていて、それを「わらわ」と言ったことによるという説がある。ただし子どもと髪型の呼称のどちらが先なのかはよくわからない。
 「わっぱ」はこの「わらわ(童)」が変化した語である。もちろん「わっぱ飯」などという、まげ物の弁当入れを言う「わっぱ」のことではないし、車輪や手錠などをいう「わっぱ」とも違う。それらはいずれも漢字で書くと「輪っぱ」である。
 ちなみに、時代劇などで武家の女性の自称として使われる「わらわ(私・妾)」は、この「わらわ(童)」から生まれた語である。童(わらわ)のような未熟な者、幼稚な者といった意味なのであろう。また、「かっぱ(河童)」は、「かわわらは(河童)」の変化した「かわわっぱ」から生まれた語である。
 なお、蛇足ではあるが、室賀正武は天正12年(1584)に、信之・信繁兄弟の父昌幸に殺害される。室賀正武に「こわっぱ」呼ばわりされる信之は永禄(えいろく)9年(1566)の生まれなのでこのときはまだ10歳代で、まさに「こわっぱ」と言える年頃である。ところがそれを演じる大泉洋さんの実年齢はというと、どう考えても20歳前とは言えないはずだが、まったく違和感がない。役者さんはすごいと思う。

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