第397回
「普通にかわいい」はほめことば?

 まずは以下の文章をお読みいただきたい。

 「おまえ、笑うと普通にかわいいんだよな。どうせならスマイルの練習もしとけ。笑顔が足りねえんだよ、おまえは」(平山瑞穂『マザー』2008年)

 文中にある「普通にかわいい」だが、かわいいのかどうか疑問に感じなかっただろうか。「普通」という語には、名詞・形容動詞としての用法と、副詞としての用法があるのだが、名詞・形容動詞としての「普通」は、ごくありふれている、珍しくない、特に変わりがなく平均的、一般的であるという意味で使われる。つまり、ニュートラルな意味合いか、時として「変わりがない」「平均的」というマイナスの意味で使われてきた。
 ところが引用文の「普通にかわいい」は、ニュートラルの意味合いどころかプラスの意味で使っているように見受けられる。このようなプラスの意味合いで使われた「普通に」の例を探してみると、「普通にきれい」「普通においしい」「普通に面白い」などが見つかる。また、「普通に気持ちが悪い」などという例もあるので、意味としては「とても」に近いのかもしれない。
 「普通」がこのよう意味で使われ始めたのがいつごろからなのか、特定はできないのだが、2000年以降に使用例が多くなるようだ。冒頭で引用した文章も2008年に発表されたミステリ小説である。
 新語に敏感な『三省堂国語辞典(三国)』(第7版)は他の辞書に先駆けてこの意味を載せているのだが、「二十一世紀になって広まった言い方」と注記している。ちなみに『三国』ではこの新しい「普通に」の意味を、「べつに変なところがなく。とても」と「当然(であるかのように)」と説明している。「普通に」が「とても」の意味になったのは、『三国』にもある「べつに変なところがなく」という意味から、変なところがないのだから「とても」とか「非常に」とかいった意味に変化していったのかもしれない。
 なぜこのような「普通に」の意味が広まったのであろうか。私は、この「普通に」自体は、ごくありふれている、珍しくないという本来の意味でも日常的に頻繁に耳にすることばであり、さらに同じ「とても」の意味で若者の間で使われている「ブチ」「オニ」「デラ」などと違って俗語的な用法ではあっても俗語っぽさを感じさせないところから、簡単に受け入れられたのではないかと考えている。今後さらに広まりそうな気がする。

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