第407回
「国語辞典界のレジェンド」といわれて・・・

 国語辞典マニアが集う、「国語辞典ナイト」というイベントがある。『三省堂国語辞典』の編纂者・飯間浩明さんを中心に、辞書の熱烈な愛好家が運営しているイベントである。その第9回の公演が今年4月に東京の渋谷であり、私もゲストとして呼んでいただいた。このイベントのチケットは発売直後に売り切れるほどの人気だと聞いていたので、辞書編集者として喜んで参加させてもらうことにしたのである。
 承諾の返事をすると、しばらくしてイベントの告知内容がメールで送られてきたのだが、それを見て、驚いた。
 「今回は国語辞典界の超レジェンド登場!『日本国語大辞典』編纂の神永曉さんが奇跡の出演決定です!」
とあったからである。そして、いろいろと考えさせられた。
 もちろんそれは、私が「国語辞典界の超レジェンド」かどうか、ということでない。この「レジェンド」という語の意味についてである。
 実は「レジェンド」という英語が日本でよく使われるようになったのは、比較的新しい。従って『日本国語大辞典』には載っていない。同じ小学館の『デジタル大辞泉』には見出し語があるのだが、意味は「伝説。言い伝え。」となっている。もちろんこれが、legendの本来の意味だろう。だがこの意味だと、「国語辞典界のレジェンド」という意味は説明できない。
 いくつかの辞典を調べてみると、『現代用語の基礎知識 2019』に「伝説。伝説的人物(名スポーツ選手)」とある。どうやら「レジェンド」は、最初はスポーツ界で名選手といわれている人に対して使われていた語であったらしい。
 確かに「レジェンド」は、2014年のユーキャン新語・流行語のトップテンに入っている。この年、葛西 紀明 さん(スキージャンプ選手)/青木 功 さん(プロゴルファー)/山本 昌広 さん(中日ドラゴンズ 投手)といった、熟年になってもトップに君臨していられるアスリートの活躍が目立った年であった。
 このスポーツ選手に対して使われていた「レジェンド」が、やがて対象が広がり、さまざまな分野で使われるようになったのに違いない。
 国語辞典の中では、さすがに新語に強い『三省堂国語辞典(三国)』には、「伝説(の人)」という意味が載っている。そしてその例文として、「その選手はチームの━になった」とある。
 「国語辞典ナイト」の飯間さんは『三国』の編纂者なので、いい機会だと思って、楽屋でこのことを話題にしてみた。『三国』も、この「レジェンド」の解説内容ですと、最初スポーツ界で使われていた名残をとどめていますね、でも最近はかなり広い範囲で使われていますよね、と。飯間さんも、確かにその通りで、検討の余地がありますねとおっしゃっていた。
 ただ、私が違和感を抱いたことは他にもある。現在この語は「伝説の人」という意味だと説明されることが多いが、この意味だと、引退している人か、もうこの世には存在していない人のように感じられてしまうのだ。だが、この語が使われるようになった当時、葛西さん、青木さん、山本さんは、バリバリの現役だったはずだ。そして、今でもこの語は現役の人に対しても使っている。だとすると、「レジェンド」のニュアンスを説明するのであれば、「伝説になりそうな人」「伝説といっていいような人」「もはや伝説となった人」ということなのではないかと思うのである。
 もちろん、私はそのいずれにも当てはまらないのだが。

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