第408回
「ミーハー」から読み解く辞典の個性

 最近はあまり耳にしなくなってしまった語だが、程度の低いことにうつつを抜かしたり、流行に左右されやすかったりすることを、多少軽蔑(けいべつ)の意味を込めて、「ミーハー」と言っていたのをご記憶だろうか。例えば、「ミーハー向けの雑誌」とか「発想がミーハーだなあ」などのように。
 この「ミーハー」だが、ふつうは「みいちゃんはあちゃん」の略だといわれていて、国語辞典では「ミーハー」ではなく、「みいはあ」の形で立項されている。ただし、実際に書くときは「ミーハー」の方が多いであろう。
 「みいちゃんはあちゃん」は『日本国語大辞典』では、

 「『みい』を『ドレミハ』の『ミ』に連想して、『はあちゃん』に並べていったとか、『みよちゃん』『はなちゃん』で女性の代表名としたとかいわれる」

と説明されている。他にも説があるのだが、この2つが代表的な語源説であろう。この「みいちゃんはあちゃん」の「みい」と「はあ」がくっついて、「みいはあ(ミーハー)」となったというのである。
 死語とまではいえないまでも、あまり使わなくなったことばなので(とはいうものの、私自身はまだ使うときがある)、小型の国語辞典ではあまりスペースを割きたくない語なのかもしれない。従って「みいはあ」「みいちゃんはあちゃん」という項目の扱いに、辞典によってかなり個性が見られるのである。それはそれでけっこう面白いのだが。
 主な小型の国語辞典におけるこの2語の扱いをまとめると、以下のようになる。(○は項目あり、×は無し)

『岩波国語辞典』
×「みいちゃんはあちゃん」
○「みいはあ」 補足説明で、「『みよちゃん花ちゃん』からという。もとはそのような娘たちを言った。」とある。
『新明解国語辞典』
×「みいちゃんはあちゃん」
○「みいはあ」 〔「みいちゃん(←みよちゃん)・はあちゃん(←花ちゃん)の略」〕とある。
『三省堂国語辞典』
○「みーちゃんはーちゃん」〔女性に多い名前を続けたことば〕とある
○「みーはー」⇒ミーちゃんハーちゃん
『明鏡国語辞典』
×「みいちゃんはあちゃん」
○「みいはあ」 補足説明で、「『みいちゃんはあちゃん』の略。」とある。ただし、「みいちゃんはあちゃん」の説明はない。
『現代国語例解辞典』
○「みいちゃんはあちゃん」 ただし、解説は「みいはあ」に送っている。
○「みいはあ」 「みいちゃんはあちゃん」の説明はない。

 いかがであろうか。これらを見て、皆さんはどの辞典がいちばんわかりやすいと思っただろうか。ほとんどの辞典では、「みいはあ」は「みいちゃんはあちゃん」からだということはわかるのだが、では「みいちゃんはあちゃん」が何なのかということになると、いささか心もとないものがある。これらの辞典の中で、2語の関係と、「みいちゃんはあちゃん」の意味がいちばんわかりやすいのは、『岩波国語辞典』かもしれない。
 もとより、これだけのことで辞典を評価するのは無理がある。だが、もはや死語に近く重要語ともいえない語ではあっても、私は辞典の役割は、引いた人の疑問にどこまで親切に答えているかが大事だと思うのである。

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