第412回
「シャールペンシル」
2019年08月05日
タイトルを見て、誤植では?と思った人がほとんどだろう。だが、ひょっとすると、自分はそう言っていた(言っている)という人がいるかもしれない。そう、「シャールペンシル」は誤植ではなく、沖縄県の石垣島限定の方言なのである。私も、最近になって知った。
意味は、もちろん「シャープペンシル」のこと。だが、なぜ「シャープペンシル」が「シャールペンシル」になってしまったのか、よくわからない。「プ」と「ル」では、あまりにも音が違いすぎる。だが、石垣島の人たちはそう言うことが多い、というよりも多くの人が「シャールペンシル」と言うものだと思い込んでいるらしい。略して、「シャールペン」などとも言うそうだ。「シャーペン」は私もそう言うことがあるが、「シャールペン」はさすがに使わない。
シャープペンシルという名称は、もともとこの文具をアメリカでeversharp「エバーシャープ」という商標名で売られたことによるらしい。日本では1877年(明治10年)に輸入されたというからかなり古い。さらに日本では、1914年(大正3年)に早川徳次(シャープ(株)の創業者)が、「早川式繰出(くりだ)し鉛筆」を製造したのが最初だという。「繰出し鉛筆」だなんて、なかなかうまいネーミングだと思う。
「繰出し鉛筆」は『日本国語大辞典』に立項されている。意味は「(芯(しん)を繰り出すだけで文字が書けるところから)シャープ‐ペンシルの古い呼び名。」とある。ただ、残念なことに、この項目には用例がない。これに近いものとして、『アルス新語辞典』(1930年)という新語辞典に、「エヴァー・シャープ・ペンシル 英 ever sharp pencil 繰出式金属製鉛筆」という例があるのを今回見つけた。だが、ものは同じであろうが、「繰出し鉛筆」の用例としては使えない。
ところで、なぜ石垣島だけ、「シャープ」が「シャール」になる独自の進化(?)を遂げたのだろうか。「ボールペン」の「ボール」と合体してしまったのだろうか。
「シャールペンシル」の文献例は見つかっていないのだが、ネットで検索してみると、さすがに数は多くないものの、ヒット数はゼロではない。キャラクターのシナモンロールが付いた「シャールペンシル」などと書いているものもある。これを書いた人の出身地はどこだったのだろうか、などとつい考えてしまう。
石垣島には、引いたことばを付せんに書いて辞書に貼(は)る「辞書引き学習」のために数年前から毎年行っているのだが、「シャールペンシル」のことは、今年の6月に行ったときに初めて知った。ただ、時間がなかったので、文具店で商品名として実際にそう書いている実例を探すことはできなかった。だから、来年もまた行って、確認しなければならなくなった。大好きな石垣島に、また行く理由ができてしまったのである。
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辞書編集者も悩ませる微妙におかしな日本語をどう考えるべきか、文献に残された具体例を示しながら解説します。さらに、辞書編集者だけが知っている日本語の面白さ、ことばへの興味が増す辞書との付き合い方などを紹介。
微妙におかしな日本語
■日時:2019年8月10日(土)13:00~14:30
■場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
■受講料:会員 3240円 一般 3888円(WEB割もあります!)
くわしくはこちら→https://www.asahiculture.jp/course/list?word=%E7%A5%9E%E6%B0%B8++%E6%9B%89&school_id=01#room
意味は、もちろん「シャープペンシル」のこと。だが、なぜ「シャープペンシル」が「シャールペンシル」になってしまったのか、よくわからない。「プ」と「ル」では、あまりにも音が違いすぎる。だが、石垣島の人たちはそう言うことが多い、というよりも多くの人が「シャールペンシル」と言うものだと思い込んでいるらしい。略して、「シャールペン」などとも言うそうだ。「シャーペン」は私もそう言うことがあるが、「シャールペン」はさすがに使わない。
シャープペンシルという名称は、もともとこの文具をアメリカでeversharp「エバーシャープ」という商標名で売られたことによるらしい。日本では1877年(明治10年)に輸入されたというからかなり古い。さらに日本では、1914年(大正3年)に早川徳次(シャープ(株)の創業者)が、「早川式繰出(くりだ)し鉛筆」を製造したのが最初だという。「繰出し鉛筆」だなんて、なかなかうまいネーミングだと思う。
「繰出し鉛筆」は『日本国語大辞典』に立項されている。意味は「(芯(しん)を繰り出すだけで文字が書けるところから)シャープ‐ペンシルの古い呼び名。」とある。ただ、残念なことに、この項目には用例がない。これに近いものとして、『アルス新語辞典』(1930年)という新語辞典に、「エヴァー・シャープ・ペンシル 英 ever sharp pencil 繰出式金属製鉛筆」という例があるのを今回見つけた。だが、ものは同じであろうが、「繰出し鉛筆」の用例としては使えない。
ところで、なぜ石垣島だけ、「シャープ」が「シャール」になる独自の進化(?)を遂げたのだろうか。「ボールペン」の「ボール」と合体してしまったのだろうか。
「シャールペンシル」の文献例は見つかっていないのだが、ネットで検索してみると、さすがに数は多くないものの、ヒット数はゼロではない。キャラクターのシナモンロールが付いた「シャールペンシル」などと書いているものもある。これを書いた人の出身地はどこだったのだろうか、などとつい考えてしまう。
石垣島には、引いたことばを付せんに書いて辞書に貼(は)る「辞書引き学習」のために数年前から毎年行っているのだが、「シャールペンシル」のことは、今年の6月に行ったときに初めて知った。ただ、時間がなかったので、文具店で商品名として実際にそう書いている実例を探すことはできなかった。だから、来年もまた行って、確認しなければならなくなった。大好きな石垣島に、また行く理由ができてしまったのである。
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