第415回
「お前らテープ回してないやろな」

 タイトルは、最近話題になったフレーズだが、ご記憶だろうか。お笑い系の芸能プロダクション、吉本興業の社長が発したということばである。このプロダクションに所属する芸人さんたちが、特殊詐欺グループの主催する会に出たり、プロダクション会社を通さない仕事、いわゆる「闇営業」をしたりしたという一連の騒動のときに、社長が芸人さんたちに説明を求めた際にそう言ったらしい。
 このことばを聞いたとき、「おや?」と思うことがあった。と言っても、この騒動そのものに関してではない。この、「テープを回してないやろな」という表現についてである。「テープを回す」って、今時、テープを使った録音機を使う人などいるのだろうかと思ったのである。人の話を録音するときは、今は、ボイスレコーダーやICレコーダー、あるいはスマホを使うのではないか、と。
 そのためだろうか、この騒動をネタにした吉本興業所属のウーマンラッシュアワーの一人が、舞台で「お客さんに言いたいことは、『ボイスレコーダーを回すなよ』」と言ったのだそうだ(「朝日新聞」2019年8月17日東京版夕刊)。テープレコーダーが若い人にはわかりにくいと考えて、ボイスレコーダーにしたのだろう。なるほどという気もしないではないが、ボイスレコーダーの内蔵メモリーはテープのように回転しているのだろうか。
 別に、揚げ足をとろうと思っているわけではない。
 テープレコーダーが主流だった時代は、確かに録音することは「テープを回す」であった。ところが、テープを使わない録音機に取って代わられても、「(テープを)回す」ということばだけが残って、「録音する」という意味で使われるのは面白いな、と思ったのである。そういえば、テレビも「チャンネルを回す」といまだに言うことがある。つまみを回してテレビ局を切り替える方式のテレビを知っている世代だけかもしれないが。
 録音機やテレビだけでなく、例えば電子レンジも、それで食品を温めることを「チンする」とか「レンチン」とか言う。だが、今時、温めが終わってチンと鳴る電子レンジなど、ほとんどお目にかかったことがない。わが家のだって、けっこう年季が入っているが、ピーとかピッピとか鳴る。
 このように、そのものの実態は変化したりなくなったりしてしまったのに、ことばだけが残ることがあって、面白い。辞書を編集する者としては、「テープを回す」をどうして「録音」の意味で使うのか、遠からず説明を求められることになるのかもしれないと思うのである。

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