第416回
「ポシャる」の「ポシャ」って何?

 計画などがつぶれたり、だめになったりすることを、俗に「ポシャる」と言う。「新事業は資金が調達できずポシャった」などと使う。『日本国語大辞典(日国)』によれば、徳川夢声のエッセー『夢声半代記』(1929年)の、「新宿座は一週間でポシャったのでした」(新宿座)という例が現時点では一番古いようだ。
 『日国』をはじめ、ほとんどの国語辞典は、この語の見出しを「ポシャる」と「ポシャ」だけカタカナで表記している。多くの人も実際に文章の中で使うときは、「ポシャる」と書くだろう。だが、なぜカタカナで書くのかと考えたことはあるだろうか。
 このように書くのは理由があって、「『ポシャ』は『シャッポ』の『シャ』と『ポ』を逆にしたものの変化した語か」(『日国』)と考えられているからである。
 だが、ちょっと待ってほしい。なぜ、「シャッポ」がひっくり返ると、だめになったり、失敗したりするという意味になるのだろうか。実は、『日国』でも「変化した語か」と「か」とあるように、理由がよくわからないのである。それは他の辞書も同様である。
 ただ、「シャッポ」は「シャッポを脱ぐ」の形で、相手にかなわないと知って降参する、観念するという意味で使われるところから、降参とだめになるとを結びつけて考える向きもあるようだ。だが、そうだとしても今ひとつ説得力に欠ける気がする。「ポシャる」は不思議なことばというよりも、謎のことばなのである。
 さらに辞書では、ごく当たり前のように「シャッポ」という語をその意味を説明することなしに示しているのだが、「シャッポ」って何だろうと思う人はいないのだろうか。「シャッポ」はフランスのchapeau からで、帽子のことなのだが、私の世代にはすぐにわかっても、若い世代には知らないという人がけっこういるかもしれない。だとすると、「シャッポを脱ぐ」と言われても、きょとんとしてしまう人がいる可能性だってありそうだ。
 自戒を込めて言うと、昔の辞書はそれでよかったのだろうが、今の時代の辞書は、ニーズに合わせて、もっと親切に記述する必要がありそうな気がする。

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