第420回
「砂をかむよう」ってどんな意味?

 文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」の2018年(平成30年)度の結果が、10月下旬に発表された。その結果は各メディアでも取り上げていたのでご記憶のかたもいらっしゃるかもしれないが、なぜかみなそろって、「憮然」「砂をかむよう」を取り上げていた。どちらも本来の意味とは違う意味で使うという人が多かったので、目に付いたのかもしれない。
 「憮然」に関しては、このコラムの第207回で一度書いているので、今回は「砂をかむよう」について書こうと思う。
 「砂をかむよう」は、例えば『日本国語大辞典』で引用している、徳富蘆花の『思出の記』(1900~01)のように、

 「馬太伝第一章から読み始めた。宛(さ)ながら砂を噛む様だ」

のように使う。砂をかんだように味気ないという意味から、物のあじわいがない、無味乾燥で味気ないという意味で使われる。
 ところが、今回の文化庁の調査では、この「無味乾燥でつまらない様子」という意味で使うと答えた人は、32.1%、本来の意味ではない「悔しくてたまらない様子」という意味で使うという人は56.9%と、逆転した結果になったのである。
 この語に、どうして悔しくてたまらない様子という意味が生まれたのか、実はよくわからない。「悔しくて唇をかむ」という言い方があるが、それとの混同なのであろうか。そして、この意味はまだ、ほとんどの辞典に載せられていないのである。さらに、私自身も、この意味での書籍の使用例はまだ見つけられていない。半数以上の人が新しい意味で使っているというのに。
 それでは、いったいどこで使われているのかということになる。そこで、国会会議録で検索してみた。すると、確かにこの意味での使用例が存在するのである。
 例えば、2015年(平成27年)7月8日の衆議院厚生労働委員会・第29号 で、以下のような発言があった。発言者は会議録ではわかるのだが、ここでは必要な情報ではないので省略する。この厚生労働委員会の直前に判明した、年金機構から個人情報が流出した事案についての発言である。

 「私は年金機構から報告を受けたのではなくて、年金局から報告を聞きました。(略)そのときのことも非常に砂をかむような思いで、私は、何ということだと思いましたが、今回も同じように、実は六月の中旬から存在自体が、誤った説明をしたという存在自体がわかっていた。」

 ここで使われている「砂をかむよう」は、明らかに、無味乾燥で味気ないという意味ではない。悔しくてたまらないという意味である。国会会議録では、他にもこの意味の使用例があるので、ひょっとすると、新しい意味は、現時点では口頭語として広まっているのかもしれない。だが、書かれた文章の中で使われるのも時間の問題だろうし、私が見つけられないだけで、実際にはもうあるのかもしれない。そして、やがては辞書にもこの意味が載ることになるに違いない。
 ちなみに私は、「砂をかむよう」の意味は、子どもの頃に聞いたフォークソングで覚えた気がする。それは、1968年に高石ともやが歌ってヒットした、「受験生ブルース」である。「砂をかむように」と「味気ない」が続けて使われているので、実に理解しやすい。ことばを覚える手本は、教科書や書籍でなくても、あちこちにあるのだと思う。

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