日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第44回
「八百長」の意味説明に疑問!

 大相撲の八百長問題が話題になっている。
 おかげで「八百長」ということば自体も取り上げられるようになり、先日も朝日新聞が「ニュースがわからん!」という記事(2011年2月3日付朝刊)で、「八百長」の語源について触れていた。
 ところが、その記事に「広辞苑などによれば」とあったために、その「広辞苑など」という言い方が妙に引っかかってしまった。というのも「など」とはいったいなんだろうと思ったからである。なぜ「広辞苑によれば」ではないのだろうかと。
 「広辞苑など」という辞典は存在しないので、「など」を付けた理由は2つ考えられる。広辞苑以外の辞典も同内容の解説だったので、広辞苑を代表させて「など」とした。あるいは、解説の内容を広辞苑以外からも補ったために「など」とした。

 朝日の記事で紹介された「八百長」の語源は以下のポイントに分けられる。
(1)明治時代のこと
(2)八百屋の長兵衛
(3)相撲部屋の親方に囲碁でわざと負けた

 広辞苑を引いてみるとそれらの部分は、
(1)明治初年
(2)通称八百長という八百屋
(3)相撲の年寄某と碁で常に一勝一敗になるようにあしらっていた
と要約できる。これでは確かに「広辞苑によれば」とは言えそうにない。

 では、「など」とされた内容はどこからもってきたものだったのだろうか。
 (1)は、広辞苑の「明治初年」が朝日では「明治時代」に変わっている。『日国』によれば「八百長」の例は明治初年までは遡れないので幅を見て「明治時代」にしたのだろうか。
 (2)は、「八百屋の長兵衛」のこととしているが、その人物が「八百長」と呼ばれていたことまで触れなければことばの説明にはならないのではないか。
 (3)は、広辞苑だけでなく、おそらく「など」に入ると思われる辞典(日国、大辞泉、大辞林)も、「一勝一敗」「勝ったり負けたり」としているのだが、なぜ「負けた」だけになったのか。
 「など」とされた辞典に関わっているから言うわけではないが、広辞苑にとっても「など辞典」にとっても、正確さを欠く迷惑な引用の仕方であった。

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