第426回
「押し出し」は“いい”のか“強い”のか?

 まわりと比べて容貌や風采がいいことを、「押し出しがいい」「押し出しが立派だ」などと言う。「押し出しがいいということだけで当選した」「押し出しは立派なのだからあとは中身がそれに伴うかだ」などのように。
 「押し出し」は、人の目に映るその人の姿や態度のことで、それが人からいい印象を受ける場合に「いい」とか「立派だ」とかいうことになる。
 ところが最近、この「押し出し」を「押し出しが強い」と言う人がいる。例えば、

 「一方、二郎よりも押し出しが強く、逞(たくま)しい本庄は、肉豆腐を頬張り、たまには肉を食べるよう二郎に助言するのです」(秋元大輔『ジブリアニメから学ぶ 宮崎駿の平和論』2014年)

といった使用例がある。文中の「二郎」「本庄」は、スタジオジブリのアニメ「風立ちぬ」の登場人物である。「押し出し」は、冒頭でも述べたように風采や貫禄のことなので、「二郎」よりも「本庄」の方が、見た目が「強い」ということではなく、文中に「たくましい」ともあることから、この場合はどうやら「押しが強い」ということを言いたいらしい。だとすると、それとの混同なのかもしれない。「押しが強い」は、どこまでも自分の意見や希望を通そうとするような人をいうので、そのように読めば不自然ではない。
 この混同はどの程度広まっているのだろうか。「押し出しが強い」が引用した使用例以外にもいくつか見つかっているので、増えつつあるのかもしれない。しかも、反対の意味の「押し出しが弱い」という例まである。

 「女の子は優美だけれども薄ぼんやりしていて、脆弱で、活力が劣り、レースだのフリルだので飾り立てでもしなければ男の子と同様には目立たない、押し出しが弱いというのか」(松浦理英子『裏ヴァージョン』2000年)

 というものだ。
 ただ、「押しが強い」との混同ではなさそうな「押し出しが強い」の例もあるので話はさらにややこしい。「押し出し感の強い車」「押し出しの強い音」「押し出しの強い看板」などといった言い方である。この場合の「押し出し」は、従来の風采、風格、貫禄とは違い、デザインや、単なる見た目、印象という意味で使われているようだ。「押し出し」にはこのような新しい意味が生じているのかもしれず、この意味だと「強い」「弱い」としても間違いだとは言えないような気がしてくる。引用した松浦理英子の例も、こちらの意味に近いのかもしれない。
 さらに、「押し出しがいい」のだから「押し出しが悪い」もあるのではないかと考える人もいるらしい。『大辞泉』は、「押し出しが悪い」の形では普通は使わないとしているが、国研のコーパスで検索すると、1例だけだが書籍の使用例が存在する。
 これらの使用例をどのように考えるべきか。誤用だと言い切ってしまえば簡単なのだろうが、そんな単純なものではない気がする。

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