第427回
「熱愛」「交際」が“発覚する”?

 まずは以下の文章をお読みいただきたい。

 「歯みがきしてない犬の多くは8歳頃に、深刻な症状が発覚する。」(西川文二『イヌのホンネ』2015年)

 注目していただきたいのは、文中に使われている「発覚」という語である。この「発覚」の使い方に違和感をもったという人は、かなりいるかもしれない。
 「発覚」は、例えば『日本国語大辞典(日国)』によると、「かくしていた秘密や罪悪、陰謀などがあらわれること。露顕。暴露。」という意味である。そして、そこに引用されている用例は、平安後期の説話文学『江談抄(ごうだんしょう)』(1111年頃)のものが最も古い。

 「致忠男保輔 保昌、兄也 是強盗主也。事発覚繋獄之後」(三)

というもので、「致忠(むねただ)の男児の保輔(やすすけ)〔保昌の兄である〕は、強盗の首領である。事件が「発覚」して獄につながれた後に」という意味だ。この例もそうだが、『日国』で引用されている他の2例、小栗風葉の『青春』(1905~06年)も長塚節(ながつかたかし)の『土』(1910年)も、「小児を山林の奥で獣類同様に育てた」とか、「悪事」とかいった、隠していたよくないことがあらわれるという意味で使われている。
 ところが、冒頭の引用文にある「発覚」はどうだろうか。犬に何か症状が現れるということで、それは深刻なものなのかもしれないが、秘密や罪悪、陰謀があらわれるわけではない。
 「発覚」の「発」は、あばくで、隠れたものごとを表にだすという意味、「覚」は人に気づかれるという意味である。そして「発覚」で、隠していたよくないことがばれてしまうということが本来の意味なのである。
 従って、小型の国語辞典のほとんどは、『日国』同様、隠しごとや悪だくみなどがあらわれることという意味にしている。
 ところが最近、スポーツ紙や週刊誌などで、「熱愛(交際)が発覚」などと書かれた記事をよく見かける。当人達にしてみればそれらは隠そうとしていたことなのかもしれないが、別によくないことでも悪事でもないだろう。これが「不倫」だと違うかもしれないが。
 このような使用例があるからだろう、『明鏡国語辞典 第2版』には、「隠してもいない事柄(特に吉事)に使うのは誤り。『×妊娠[婚約・誕生]が発覚』」とかなり踏み込んだ内容の注がある。確かに、「妊娠・婚約・誕生」は従来「発覚」と一緒に使われなかった語なので、本来の言い方ではない。だが、「誤り」と言い切れるかということになると、いささか疑問がある。ことばの意味が本来のものとは異なるものに変化していくのはよくあること。「発覚」のこの新しい意味がさらに広まる可能性は否定できないのである。好むと好まざるとにかかわらず、辞書ではそれに合わせて、語釈の内容を変えていかなければならない語なのかもしれない。

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