第432回
「デマ」と「ガセ」

 メディアもインターネットも、新型コロナウィルス関連の情報であふれかえっている。だが、それらの中には不確かな情報もかなり紛れ込んでいるようで、「デマ」、「ガセ」だから鵜呑みにしないようにと、注意を呼びかけているものもしばしば見受けられる。そうなると、いったい何を信じていいのかわからなくなってくる。現代のようにさまざまな情報が飛び交うというのも、善し悪しなのかもしれない。
 ところで、この「デマ」と「ガセ」だが、今は同じような意味で使われているものの、本来はまったく違う意味だったということをご存じだろうか。2語を合わせると「でまかせ」という語に似ているが、「でまかせ」は「出・任せ」で、その場で口から出るにまかせてしゃべるでたらめのことをいい、まったく関係がない。
 「デマ」はドイツ語の「デマゴギー Demagogie」の略で、元来は「政治的な目的で相手を誹謗(ひぼう)し、相手に不利な世論を作り出すように流す虚偽の情報。また、社会情勢が不安な時などに発生して、人心を惑わすような憶測や事実誤認による情報。」(『日本国語大辞典(日国)』)という意味である。つまり、望ましくない政治手法として、本来は非難の意味を込めて用いられた語なのである。これが、一般に広まって、単なる悪口や根拠のないうわさ話の意味で使われるようになったというわけだ。
 一方の「がせ」は『日国』によれば、「にせもの、まやかしものをいう、てきや・盗人仲間の隠語」である。つまりこちらは「ガセ」と書かれることも多いが、日本語なのである。ただ、なぜ「がせ」というのかはよくわかっていない。「騒がせる」「お騒がせ」の「がせ」からだという説もあるようだが、「がせ」には「偽造通貨、偽画、偽書などの偽造品。また、それらを使う詐欺をいう」(『日国』)という意味があり、偽造品は決して「騒がせて」はいけないものだろうからこの説はかなり怪しい。
 いずれにしても、「デマ」と「ガセ」はまったく別の語だったのである。だが、最近はほとんど同じ意味で使われているわけで、もちろんそれはそれでなんら問題はない。ただ、せっかくの機会なので、本来の意味の違いを知っていても損はない気がする。
 なお、最近は同じ意味で「フェイク」「フェイクニュース」などと言う人もいる。もちろんそれもなんら問題はないことだが、年配者には(私も含めて)、「フェイク」よりも「デマ」「ガセ」の方が意味が通じやすい気がする。従って、その世代に向けて、むやみに信じてはいけない情報だということを伝えたいのであれば、「デマ」「ガセ」の方が理解されやすいということを申し添えておきたい。

◆神永さん監修! 相撲ことばの本が発売!
「いなす」「待ったなし」「仕切り直し」「大一番」「番狂わせ」「ぶちかます」「一枚上手」「揃い踏み」「脇が甘い」……ちまたにあふれるお相撲ことばを約200語解説。子どもから大人まで楽しめる完全保存版。
『子どもたちと楽しむ 知れば知るほど お相撲ことば』
『おすもうさん』編集部/編著
大山 進(元幕内・大飛)、神永 曉(辞書編集者)/監修
ベースボールマガジン社より5月15日発売
くわしくはこちら

キーワード:

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額600万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る