第442回
「返り討ち」にあった相手とは?

 少し前のものだが、まずは以下のスポーツ新聞の記事をお読みください。

 「2年連続開幕投手を任された中日・大野が6回9安打6失点と大炎上。森新監督に初星を贈ることはできなかった。〈略〉チームは昨季最終カードの巨人戦〈略〉で2試合連続サヨナラ負けを喫した悪夢を振り払い、最下位からの巻き返しへ再スタートを切りたかったが、返り討ちにあう形となった。」(2017年4月1日「スポーツニッポン」)

 よくある内容のスポーツ記事(中日が巨人に負けることがよくあるという意味ではない。念のため)だと思う。なぜこれを引用したのかというと、「返り討ちにあう」の使い方に注目していただきたかったからである。
 『日本国語大辞典(日国)』で「返り討ち」を引いてみると、

(1)自分と関係のある人を殺傷した相手に復讐をしようとして、逆にその相手に討たれること。
(2)江戸時代、主人が下人を手討ちにしようとして、かえって下人に殺されること。この場合、家は断絶となった。
(3)転じて、一般に、相手にしかえしをしようとして、逆にまたやっつけられること。

以上の3つの意味が示されている。これらの意味に共通しているのは、(2)の意味は別にして、「復讐(ふくしゅう)」とか「しかえし」をしようとして、逆にやり返されるということである。(2)の意味も江戸時代の定めで、形としては下人の側に落ち度などがあったときに主人が手討ちにしようとしたという、前提のある意味だと思われる。
 ところが、冒頭のスポーツ新聞の記事を読むと、ここで使われている「返り討ち」には、「復讐」とか「しかえし」とかいった強い意味合いの前提はない。「返り討ちにあう」の形で、単に襲ってきた相手や戦う相手に(満を持して)応戦したものの、逆にやられてしまうという意味で使われている。実は、この襲ってきた相手に反撃したものの、逆に打ち負かされてしまうという意味は、この記事に限らずかなり広まっているようなのだ。
 おそらくこれは「返り討ち」が例えば、東川篤哉のミステリー小説『謎解きはディナーのあとで3』(2012年)にも、

 「犯人は凶器として木刀を用いております。風祭警部の推理によれば、この木刀は隆文氏が泥棒撃退のために自ら持ち出したもの。隆文氏はその木刀を泥棒に奪われ返り討ちにあった、警部はそう推理したのでございます。」(さよならはディナーのあとで)

とあるように、単に襲ってくる相手を打ち負かすという意味で使われるようになったためであろう。
 最近の国語辞典の中には、この新しい意味について触れているものが出始めている。『日国』も、実際の使用例もあることなので、語釈の内容を検討しなければならないようだ。

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