第462回
「まげなジャガイモ」

 タイトルにある、「まげな」の意味がすぐにわかったというかたはいるだろうか。実は、私はすぐにはわからなかった。仕事で出かけた島根県邑南町で、お昼に食べたお弁当に添えられた紙に、以下のように書かれていたのである。

 「梅雨の晴れ間にジャガイモを掘ってみました。まげなのがゴロゴロ出てきたので、粉吹きいもにしてみました」

 「ま」はわからなかったが、「げ」は形容動詞の語幹をつくる「げ」だということは見当が付いた。どうもそれらしい様子であるという意味を表す、「心細げ」「はずかしげ」などの「げ」と同じだろうと。だが、どうしても「ま」がわからない。前後から、「大きい」とか「おいしそうな」とかいった意味なのではないかと、勝手に想像するしかなかった。
 帰宅してからあれこれ考えて、「ま」はひょっとすると「うま」の変化した語ではないかと思い至った。『日本方言大辞典』を引いてみると、確かに「うまげ」が立項されている。そして、「うまそうなさま。おいしそうなさま」という意味に、異形として《まげ》 があり、分布地域は鳥取県西伯郡、島根県とあるではないか。
 「まげなジャガイモ」はおいしそうなジャガイモという意味だったんだと、ようやくすっきりできた。『日本方言大辞典』によれば、島根で使われる《まげ》には、りっぱなさま、みごとなさま、巧みなさま、じょうずなさまという意味もあるようだ。
 さらに『日本国語大辞典(日国)』で「うまげ」を引いてみると、「形容詞『うまし』の語幹に接尾語『げ』の付いたもの」と説明されている。そして、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』と、『今昔物語集』といった、平安時代の2つの例が引用されている。このうちの『今昔物語集』の例がちょっとホラーである。『日国』で引用されているのは以下の例だ。

*今昔物語集〔1120頃か〕二七・一五「彼の嫗(おうな)も、子を穴(あな)甘気(うまげ)、只一口と云けるは、定めて鬼などにてこそは有けめ」

簡単に説明すると、ある屋敷に仕える身寄りのない若い女性が、父なし子をはらんで困り果て、古びた山荘で出産しようとすると、家主の老婆が出産と逗留まで許してくれたのだが、その老婆は鬼だったという話である。その老婆が赤ん坊を見て、「なんとうまそうな、ただの一口だ」と言ったというのである。この「うまげ」という語は、現在ではほとんど使われることはないが、方言には残っていたわけである。このように、古い時代に使われていた語が方言に残っているというのは、とてもおもしろいと思う。
 なお『今昔』の結末だが、赤ん坊を鬼に食べられそうになった女性は、鬼が寝ている間に逃げ出して難を逃れ、無事主人の家に戻ることができた。赤ん坊はというと、人に預けて養ってもらったと書かれていて、なかなか描写が細かい。
 ちなみに、邑南町で私が食べたお弁当は、「銭宝(ぜにほう)キッチン」というところで調理したものだった。銭宝は邑南町内の布施という中山間地域の別名のようで、そこの自治会が始めた配食サービスのお弁当だったらしい。粉ふきいもだけでなく、他のおかずもみな、“まげな”お弁当であった。

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