日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。隔週月曜日にお届けします。

第471回
「キューピー」と「キユーピー」

 まずはクイズから。

 キューピー株式会社
 シャチハタ株式会社
 キャノン株式会社

 いずれも著名な企業名だが、実はどれも1か所間違いがある。どこかおわかりだろうか?
 正解は、「キューピー」ではなく「キユーピー」、「シャチハタ」ではなく「シヤチハタ」、「キャノン」ではなく「キヤノン」なのである。つまり、「キュ」の「ュ」、「シャ」「キャ」の「ャ」は、正式な社名では小文字にはしていない。
 どうしてそのようなことになっているのだろうか。普通は小文字で書かれる文字を、あえてそうしなかったのは、会社によって事情があるのかもしれない。
 ただ、かつては、キャ、キュ、キョ、シャ、シュ、ショのように小さなャ、ュ、ョを綴(つづ)りにもつ音節を表記する場合、ャ、ュ、ョを小文字にすることはなかったのである。このような、小さなャ、ュ、ョを伴う音のことを、「拗音」と呼んでいる。「拗」とは、ねじれる、まっすぐでないという意味の漢字である。
 この拗音で使われるャ、ュ、ョが、小文字で書かれるようになったのは、比較的新しい。第二次世界大戦後のことなのである。それは、1946年(昭和21)11月16日付けで、内閣訓令第8号とともに、内閣告示第33号によって公布された「現代かなづかい」による。その「備考」欄に、「第九 拗音をあらわすには、や、ゆ、よを用い、なるべく右下に小さく書く」とある。
 なぜそのような注記が必要だったかというと、それ以前は、拗音を小さく書くことはほとんどなかったからである。
 上記の3社は、いずれも創業は戦前なので、拗音を小文字にする必要がなかったということが、最大の理由かもしれない。
 この「現代かなづかい」は、1986年(昭和61年)7月1日制定の内閣訓令第一号、内閣告示第一号で、「現代仮名遣い」として改定されている。その「凡例」「2 拗音」では、具体的に拗音の例が示され、「注意」として、「拗音に用いる『や、ゆ、よ』は、なるべく小書きにする」とある。「なるべく」とわざわざ断っているのは、小文字にはしない表記も認めるということだろう。上記3社のような例もあるからだろうか。
 ちなみに、拗音ではないが、富士フイルム株式会社も、「イ」は小文字にしていない。富士フイルムの前身、富士写真フイルムの創立は1934年(昭和9年)である。
 「フイルム」の表記については、1991年(平成3年)6月28日に内閣告示第2号として告示された、「外来語の表記」に以下のような説明がある。
 「5 『ファ』『フィ』『フェ』『フォ』は,外来音ファ,フィ,フェ,フォに対応する仮名である」としつつ、その注記に、「『ファン』『フィルム』『フェルト』等は、『フアン』『フイルム』『フエルト』と書く慣用もある」と述べている。
 小文字にしない表記も認めているわけで、現状に即しているものと言えるだろう。

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