第472回
「小間使い」が動詞になる?

 まずは以下の新聞記事をお読みいただきたい。

 「ヤクルトや日本ハム、西武のような指導者育成のシステム化が進まず、一部の球団フロントが実権を握ってコーチが小間使いされている現状がある」(「夕刊フジ」2021年11月4日)

 「引退鳥谷にも見捨てられた阪神…再スタートの地に選ばれず 2軍首脳陣5人が一斉退団」という見出しの記事である。と言っても、別にプロ野球阪神タイガースのコーチングスタッフの育成システムについて論じたいわけではない。記事中の「小間使いされている」という部分に注目していただきたいのである。しつこいようだが、阪神のコーチ陣の待遇について言及したいわけでもない。
 この部分は「球団OB」が語ったとされる部分で、記者が書いた文章ではない。だが、「小間使い」が、「小間使いされる」と動詞化して使われているところが気になったのである。
 「小間使い」は、『日本国語大辞典(日国)』によると、以下の3つの意味がある。

(1)禁中に仕える下級の武士。五石二人扶持。使番に文箱を渡したり、医師の薬籠を女嬬に渡したり、命婦らの外出に輿脇の供をしたりする。
(2)江戸幕府で雑用にたずさわる下級の職。一五俵一人半扶持、一三五人。膳所小間使、風呂屋小間使、広敷小間使、表小間使などがある。
(3)主人の身の回りの雑用に使われる女中。召使い。

 私たちがふつうに思い起こす「小間使い」の意味は(3)だろう。ただ、そのような職業の人も少なくなり、また語釈中にある「女中」の語も含めて差別的な意味合いがあるとして、現在ではあまり使われなくなっていると思う。そのまま、死語になりそうなところだが、ひょっとすると「小間使いする」の形で生き延びるかもしれないと思ったのである。
 「小間使い」の「小間」は、『日国』によると

〔語素〕名詞の上に付いて、こまかな、ささいな、手軽なの意を表わす語。「こまもの」「こまぎれ」「こま使い」など。

だという。「語素」は、複合語や派生語の構成要素となる、意味を持った最小の単位のことである。
 つまり、冒頭の記事もそうだが、「小間使いする」は、手軽に使うとか、便利に使うとかいった意味で用いられていると思われる。
 あることばが変化して、動詞として使われるようになることは、昔からあり別に珍しいことではない。最近でもタピオカが入った飲料を飲むことを「タピる」と言っていたし、江戸時代には茶漬を食べる「茶漬(ちゃづ)る」なんて語もあった。
 「小間使いする」はどうかというと、この「球団OB」が言い出した語というわけではなく、インターネットで検索するとけっこう見つかる。
 現時点では、この意味を載せている辞書は無いが、この用法が広まれば、将来的に辞書に載せられるかもしれない。

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