第477回
「森」と「林」の違いって何?

 寄席に行ったときのことである。高座に上がった漫才コンビの米粒写経が、「森」と「林」ってどう違うのか、ということをネタにしていた。米粒写経のツッコミ役は日本語学者で、国語辞典の収集家としても知られるサンキュータツオさんなので、どのような内容になるのかと思わず身を乗り出した。すると、相方の居島一平(おりしまいっぺい)さんが少しぼけたあと、サンキューさんが、「林」は「松林」「竹林」のように一種類の樹木からなり、「森」はいろいろ樹木からなる点が違うと説明していた。これに対して居島さんが、「じゃあ、雑木林は?」とぼけるのかなと思ったら、そうはならなかった。もっとも、そんな素人が考えるような展開にしたら漫才ではなくなって、ことばをテーマにした講演会のようになってしまうだろう。
 もちろん、「雑木」は単独の樹木の名ではなく、いろいろな木という意味だから、「雑木林」は「松林」「竹林」のような「林」とは異なる。だが、それについては後ほど述べるとして、「森」と「林」の違いを説明するとき、サンキューさんの語った内容は、とてもわかりやすい説明のひとつなのである。ただ、少しだけ補足させていただきたい。
 「森」と「林」の違いは何かと聞かれると、大人でもどう説明したらいいのか一瞬とまどうに違いない。まさか子どもに、「森」の方が「林」よりも、「木」の数が1つ多いので、「森」の方が木がうっそうと茂っていたり、樹木が生えている面積が大きかったりする、などと答えている人はいないと思うが。
 違いを説明する場合、まず、「もり」と「はやし」の語源は何かということを考えてみるとよい。
 ふつう、「もり」は「盛り」、「はやし」は「生(は)やし」の意からだといわれている。つまり、「もり」は盛り上がっているという意味、「はやし」は樹木などが群がりはえているという意味だと考えられているのである。
 たとえば、その土地の守護神をまつった神社を取り囲む木立(こだち)のことを「鎮守の森(「杜」とも)」と言う。この森は、小高く盛り上がっているように見えることが多い。だから「もり」なのである。これを「鎮守の林」と言うことは決してない。ちなみに「杜」という漢字は、果樹の一種のヤマナシ、あるいは、とじる、ふさぐという意味の漢字で、これを樹木の生い茂った「もり」とするのは、日本での用法である。
 そのようなこともあって、たとえば『万葉集』では「神社」を「もり」と読ませている歌もある(巻七・一三七八)。
 これに対して「林」は、「はやし(ばやし)」と読んで、「スギ林」「マツ林」「タケ林」などと使われることが多い。また、「りん」と読んで、「熱帯降雨林」「原生林」などのようにも使う。これから、「林」は、植物学的な場合に使うことが多いと考えてよさそうだ。だから「雑木林」も、一種類の樹木からなる「林」ではないが、いろいろな樹木が生い茂っているところといった植物学的な意味合いがあるので、何の問題もない。
 くり返すが、もし子どもに「森」と「林」の違いは何かと聞かれたら、どちらも多くの木が生い茂っていることでは同じだが、「森」は木がこんもりと盛り上がるように生い茂っているところ、「林」は植物学的に使うことが多いと教えたら間違いないと思う。

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