第485回
光り輝く「きんかん頭」

 宮部みゆきさんの『黒武御神火御殿(くろたけごじんかごてん)』という小説を読んでいて、懐かしい語と出会った。と言っても、思い出深い語というわけではない。最近、ほとんど聞かなくなった語である。
 「きんかん頭」
 使う場を間違えたら差別語だが、このような語があったことを久しぶりに思い出した。もちろんはげ頭のこと。「きんか頭」とも言う。
 私がこの語を知ったのは、間違いなく高校時代に読んだ、吉川英治の『新書太閤記』(1939~45年)からである。ただし、同書では、「きんかん頭」ではなく「きんか頭」だった。
 それは明智光秀のことで、光秀は主君織田信長から、他の家臣の前でもそのように呼ばれていたというのである。実際に光秀が禿げていたかどうかはわからない。が、そのような伝承は確かにあるようだ。
 ところで、この「きんかん(きんか)」は柑橘類のキンカンのことだろうと、今までなんら疑いを抱いてこなかった。ところが、最近になって『日本国語大辞典(日国)』の「きんか頭」の「語誌」欄に、興味深いことが書かれているのを見つけた。少し長いが、そのまま引用する。

 「語源として、『金革』の略とも、『きんかり』光るさまからともいわれる。この語の使用時期より古くキンカン単独での例が見られるところから、直接的には柑橘類の『金柑』の形状からの連想が考えられるが、光るさまをいう擬態語『ぎんがり』との音の類似、また、『金』と光るイメージの類似など、複合的背景のあることも考えられる」

 「ぎんがり(きんかり)」とは、キラキラといった意味で、『日国』にも立項されている。そこで引用されている下記の俳諧例は、「きんかん」と「ぎんがり」の関連を思わせる。

*俳諧・鷹筑波集〔1638〕一「ゆびさす月のかげはぎんがり はげあたま修多羅の教を身にしめて〈日如〉」。

 「修多羅」は仏の教え、経文のことなので、さらに髪を剃った僧侶を連想させる。
 つまり『日国』は、「きんかん(きんか)頭」はキンカンの形から生まれただけの語ではなく、光るという意味合いも合わせもった語だと述べているわけである。だとすると、かなり念の入った語のような気がする。
 確かにはげ頭には、光るというイメージもある。「逆蛍(ぎゃくぼたる)」という語は、そのようなイメージから来ている。尻が光るホタルとは逆に、頭が光るということである。
 私は、子どものころ「はげちゃびん」とも言っていた。この言い方はどこでおぼえたのだろうか。「ちゃびん」は「茶瓶」のことである。はげ頭を「はげちゃびん」「ちゃびん」と言うのは、『お国ことばを知る方言の地図帳』(佐藤亮一監修)によると近畿地方に多い。ただ、関東でも茨城などに「はげちゃびん」と言う地域があるようなので、私の「はげちゃびん」はそれから来ているのかもしれない。
 湯沸かしのことは、関西では「茶瓶」だが、関東では「薬缶(やかん)」である。だから、「やかん頭」という語ももちろん存在する。
 東京の落語に「やかんなめ」があるが、もともとは上方の噺で「茶瓶ねずり」といったらしい。「ねずり」はなめるの意味である。
 私が聞いた、柳家小三治師匠のそれは、梅見に出かけた大家(たいけ)の奥方が、途中で持病の癪(しゃく)を起こしてしまうのだが、奥方はなぜか「やかん」をなめると癪がおさまるのである。そこへ薬缶のような見事なはげ頭の立派な武家が家来と一緒に通りかかって……といった噺である。
 以前、秘書を「ハゲ」呼ばわりして話題になった国会議員がいたが、これらの語も面白がって使うと取り返しのつかないことになる。使用にはじゅうぶんお気をつけ願いたい。

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