第486回
『類語例解辞典』の編集担当者として
2022年08月08日
このコラムを連載しているジャパンナレッジに、新たなコンテンツとして『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館)が加わった。
この辞典の書籍版の発売は1993年のことなので、刊行からすでに30年近くたっている。にもかかわらず、今回新たにジャパンナレッジに収録されたということは、今でも需要があるからなのだろう。この辞典に企画の段階からかかわった者として、実に喜ばしい。
この辞典が生まれる経緯や編集上の苦労話は、拙著『辞書編集、三十七年』(2018年 草思社)で詳しく書いたので、興味のあるかたはそちらをお読みいただきたい。
この辞典の企画を立ち上げた当時、類語辞典には、やはりジャパンナレッジに収録されている『角川類語新辞典』(1981年 角川書店)があった。だが私としては、収録語数は限られていても、類語のニュアンスの違いを詳しく解説した辞典を世に問うてみたかったのである。そのような辞典はそれまでなかったし、今でも多くはない。
似た意味の語をどれだけ知っているかで、文章力に差が出ることは、皆さんも経験があるだろう。ただ、知っていればいいというわけではない。それらの語をどのように使いこなすかが重要なのである。
『類語例解辞典』では、類語のニュアンスの違いを説明するのに、1985年に初版を刊行した『現代国語例解辞典』でも使用した「類語対比表」を採用した。『現代国語例解辞典』も、私が企画の段階から編集にかかわった辞典である。「類語対比表」は『日本国語大辞典』の編集委員だった松井栄一(まついしげかず)先生の発案である。
『類語例解辞典』では、たとえば「体の調子がよくて、気力、体力が盛んな様子」を意味する、「元気/健康/丈夫/達者」の各語を類語のグループとして一つにまとめ、それぞれの語のニュアンスの違いを解説している。「類語対比表」はすべてのグループで使ったわけではないが、「元気/健康/丈夫/達者」にはある。
これらの4語は、「~な体」という場合、4語とも問題なく使えるが、「足が~」だというときは、「丈夫」「達者」を使うのが適切だということがわかる。その理由として、この2語は体の一部がしっかりしているさまを表す語だからだと説明されている。
また、これらの4語の他に、「息災/壮健/健全/強壮/強健/頑健/健勝/健やか」といった関連する語も添えて、それぞれに意味と使い方を示し、類語の範囲を広げている。
今回、この辞典がジャパンナレッジに収録されて、デジタルならではの検索ができるようになったのも、使い勝手がよくなった点だと思う。たとえば、「元気」は「活気/元気/生気」というグループも形成しているのだが、すぐにその解説に飛ぶことができるのである。
また、『類語例解辞典』では、「元気/健康/丈夫/達者」のような類語グループを、10の大分類、それをさらに20の中分類に分けた、計200分類の枠の中に収めている。ジャパンナレッジ版では、ある語を検索すると、中分類に収められた類語グループが一括して表示されるのもありがたい。この類語グループの分類も、ほとんど私が作成したものである。根気のいる作業で、ことばを分類することの難しさをつくづくと思い知らされた。
現在発売中のこの辞典の書籍版は、2003年に内容は変えずに本文と装丁のデザインを新たにし、新装版と名付けたものである。実は、その前の版は、本文デザインも装丁も私が手がけた。それはそれでとんでもない話だが、それだけにこの辞典に対する思い入れはひとしおなのである。そのため、今回いささか宣伝めいた内容になってしまったことはお許しいただきたい。
ただ一つ、心残りなことがある。辞典のジャンルとして、類語辞典の重要性をもっと広めたいと思いつつ、在職中に果たせなかったことである。
ジャパンナレッジには、『類語例解辞典』『角川類語新辞典』という個性的な二つの類語辞典が収録されるようになったので、ともに大いに活用していただきたい。
この辞典の書籍版の発売は1993年のことなので、刊行からすでに30年近くたっている。にもかかわらず、今回新たにジャパンナレッジに収録されたということは、今でも需要があるからなのだろう。この辞典に企画の段階からかかわった者として、実に喜ばしい。
この辞典が生まれる経緯や編集上の苦労話は、拙著『辞書編集、三十七年』(2018年 草思社)で詳しく書いたので、興味のあるかたはそちらをお読みいただきたい。
この辞典の企画を立ち上げた当時、類語辞典には、やはりジャパンナレッジに収録されている『角川類語新辞典』(1981年 角川書店)があった。だが私としては、収録語数は限られていても、類語のニュアンスの違いを詳しく解説した辞典を世に問うてみたかったのである。そのような辞典はそれまでなかったし、今でも多くはない。
似た意味の語をどれだけ知っているかで、文章力に差が出ることは、皆さんも経験があるだろう。ただ、知っていればいいというわけではない。それらの語をどのように使いこなすかが重要なのである。
『類語例解辞典』では、類語のニュアンスの違いを説明するのに、1985年に初版を刊行した『現代国語例解辞典』でも使用した「類語対比表」を採用した。『現代国語例解辞典』も、私が企画の段階から編集にかかわった辞典である。「類語対比表」は『日本国語大辞典』の編集委員だった松井栄一(まついしげかず)先生の発案である。
『類語例解辞典』では、たとえば「体の調子がよくて、気力、体力が盛んな様子」を意味する、「元気/健康/丈夫/達者」の各語を類語のグループとして一つにまとめ、それぞれの語のニュアンスの違いを解説している。「類語対比表」はすべてのグループで使ったわけではないが、「元気/健康/丈夫/達者」にはある。
これらの4語は、「~な体」という場合、4語とも問題なく使えるが、「足が~」だというときは、「丈夫」「達者」を使うのが適切だということがわかる。その理由として、この2語は体の一部がしっかりしているさまを表す語だからだと説明されている。
また、これらの4語の他に、「息災/壮健/健全/強壮/強健/頑健/健勝/健やか」といった関連する語も添えて、それぞれに意味と使い方を示し、類語の範囲を広げている。
今回、この辞典がジャパンナレッジに収録されて、デジタルならではの検索ができるようになったのも、使い勝手がよくなった点だと思う。たとえば、「元気」は「活気/元気/生気」というグループも形成しているのだが、すぐにその解説に飛ぶことができるのである。
また、『類語例解辞典』では、「元気/健康/丈夫/達者」のような類語グループを、10の大分類、それをさらに20の中分類に分けた、計200分類の枠の中に収めている。ジャパンナレッジ版では、ある語を検索すると、中分類に収められた類語グループが一括して表示されるのもありがたい。この類語グループの分類も、ほとんど私が作成したものである。根気のいる作業で、ことばを分類することの難しさをつくづくと思い知らされた。
現在発売中のこの辞典の書籍版は、2003年に内容は変えずに本文と装丁のデザインを新たにし、新装版と名付けたものである。実は、その前の版は、本文デザインも装丁も私が手がけた。それはそれでとんでもない話だが、それだけにこの辞典に対する思い入れはひとしおなのである。そのため、今回いささか宣伝めいた内容になってしまったことはお許しいただきたい。
ただ一つ、心残りなことがある。辞典のジャンルとして、類語辞典の重要性をもっと広めたいと思いつつ、在職中に果たせなかったことである。
ジャパンナレッジには、『類語例解辞典』『角川類語新辞典』という個性的な二つの類語辞典が収録されるようになったので、ともに大いに活用していただきたい。
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