日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第498回
天気予報の用語は国語辞典でどう扱うべきか?

 『日本国語大辞典(日国)』は国語辞典だが、いわゆる百科語と呼ばれる語も多数収録されている。百科語とは、社会・文学・科学・歴史・演劇・美術・医学などあらゆる分野の事項に関する専門的な語をいい、広く日常生活の中で使われている語をいう国語とは区別している。
 ただ、収録語数50万語の『日国』にどれくらいの数の百科語が立項されているのかと聞かれると、はっきりと答えることはできない。百科語と考えるべきかどうか判断に迷う語が多数あるからだ。『日国』の場合、多くの国語項目には文献からの用例を添えているので、そうした用例があるかないかで多少判断は可能である。だが、実際にはそれほど単純なことではない。国語項目として扱われる語でありながら、専門分野でも使われていて、独自の意味をもたされている語があるからだ。たとえば、天気予報で使われる語がそうである。
 その中には「晴れ」「雨」「霧」といった語だけでなく、「しばらく」「一時」といった期間や時間を表す語も含まれる。これらの語は、日常生活の中でも普通に使われるが、天気予報ではかなり限定的な意味で使われている。
 たとえば「しばらく」はどうだろう。『日国』では、「少しの間。一時。ちょっと」という意味や、「久しく。少し長い間」という意味などがあるとしている。だが、気象庁が公開している予報用語によると、この語は、
 「2~3日以上で1週間以内の期間を指し、状況によって過去の期間をいう場合と未来の期間をいう場合がある」
と説明されている。『日国』の語釈にくらべて、かなり具体的、かつ限定的である。
 「一時(いちじ)」もそうだ。『日国』では、「少しの間」という意味だが、予報用語としては、
 「現象が連続的に起こり、その現象の発現期間が予報期間の1/4未満のとき」
とやはり具体的である。
 「時々(ときどき)」は、
「現象が断続的に起こり、その現象の発現期間の合計時間が予報期間の1/2未満のとき」
だという。そして、予報で言う「断続的」は「現象の切れ間がおよそ1時間以上」ということなのだそうだ。
 曖昧さを極力排除しなければならない天気予報では、こうした取り決めはとても重要だと思う。だが、このような意味を国語辞典にも載せられるかというと、まったく別の問題になってくる。一般的な国語としての意味とはまったく異なるものだからだ。
 ただ、辞典によっては予報用語の意味を載せているものが存在しないわけではない。私が編集にかかわった辞典だが、『現代国語例解辞典』では予報用語としての「一時」「ときどき」の違いを補注でだが触れている。このような内容だ。

 「天気予報では、雨が連続して降り、その合計時間が予報期間の四分の一未満のときは『一時』といい、雨が断続して降り、その合計時間が二分の一未満のときは『時々(ときどき)』という」(「一時」の補注)

 『現代国語例解辞典』ではそう記述したものの、『日国』第2版ではこれを採用しなかった。『日国』ではそこまで踏み込む必要はないと考えたからである。では『日国』の次の版ではどうすべきか。私はやはり躊躇するだろうが、他の編集者はどう考えるだろうか。

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