日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第61回
「肉汁」の「汁」を何と読むか?

 先日、焼き肉をおいしく食べるには秘訣(ひけつ)があるというNHKの番組を何気なく見ていたら、アナウンサーが「ニクジュウ」といったあとに「ニクジル」と言い換えていた。漢字で書けば「肉汁」だが、みなさんはこれを何と読んでいるだろうか?
 かくいう筆者は「ニクジュウ」派なのだが、若い人の間に「ニクジル」が増えているという。確かにインターネットで検索すると、「ニクジル」が勢力を伸ばしつつあるという傾向がうかがえる。
 『日国』で「肉汁(にくじゅう)」を引いてみると、
 (1)鳥獣の肉を煮出してつくった汁。また、肉を入れた汁。肉羹(にっこう)。
 (2)「にくしょう(肉漿)」に同じ。
 (3)肉を焼くときにしみ出る液汁。
とある。(3)が今回のテーマの意味である。(2)の「肉漿」とは、やはり『日国』よれば「肉をしぼってとった汁」のこと。
 これに対して、「ニクジル」は『日国』には見出し語として登録されていない。これは、他の国語辞典もほぼ同様である。
 「ニクジル」という言い方は、同じ「肉」の付く「肉厚(にくあつ)」「肉色(にくいろ)」「肉太(にくぶと)」などといった読みの語に引きずられて生まれた、新しい言い方だと思われる。「ニク」は訓読みのようだが実は音読みで、「シル(ジル)」は訓読みだから「ニクジル」だと重箱読みになってしまう。
 そのためNHKでは伝統的な「ニクジュウ」を使うようにしているようだ。くだんのアナウンサーは、焼き肉の食べ方を伝授する番組は若者向けだと判断したのかもしれない。

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