日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。隔週月曜日にお届けします。

第63回
「生食」の「生」は「せい」?「なま」?

 焼き肉店でユッケを食べた方が亡くなるという痛ましい事件が起きた。
 ユッケは牛肉の生肉から作るのだが、食べ物を加熱せずに生のままで食べることを「生食」という。
 この「生食」の読み方だが、みなさんは迷わずに読んでいるのだろうか。
 かくいう筆者はその時々で、「せいしょく」と言ったり「なましょく」と言ったり、かなり揺れているような気がする。
 「生」の音読みは「せい(しょう)」だが、「なま」は訓読みなので「なましょく」は湯桶(ゆとう)読みになってしまう。ところが、「せいしょく」は同音異義語が数多くあるため耳で聞くと分かりづらい。だから、「なましょく」という言い方もかなり広まっているのであろう。
 「生」を「せい」と読むか「なま」と読むかと考えると、余談になるが、映画も話題になっている小説『阪急電車』(有川浩著)の冒頭の部分を思い出す。図書館ですれ違うだけの男女が、たまたま阪急電車で一緒になり、車窓から見える川の中州に書かれた「生」の字の読み方をめぐって思い思いの読み方を相手に語るうちに急接近するという出会いの場面である。「生」は「なま」「せい」と読まれ、「なま」の連想で男が女に「生ビール」を飲みに誘うのである。
 余談が長くなってしまった。
 結論を言えば、「生食」は「せいしょく」でも「なましょく」でも、どちらでもまちがいではないのである。
 それにしても、日本語は声に出して読むのが難しい語が本当に多いと思う。

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