日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第68回
8月1日は何の日?

 今日は何の日?と聞かれたら、みなさんは何と答えるだろうか。
 江戸好きな人なら、おそらく徳川家康の江戸入府の日と答えるであろう。天正18(1590)年の今日(陰暦8月1日)、家康は初めて江戸城に入ったのである。
 家康の江戸入府よりも前から、この日は「八朔(はっさく)」と呼ばれ、農家でその年に取り入れした新しい稲などを、日ごろ恩顧を受けている主家や知人などに贈って祝う日であった。のちにこの風習が広まり、この日に上下貴賤(きせん)それぞれ贈り物をし合うという社交的な行事となっていくのである。
 鎌倉時代後期からは朝廷の行事としても行われ、武家の間でも広まっていく。
 家康はわざわざこの日を選んで江戸に入府したという説もある。
 そのようなこともあって江戸時代には武士の公式な祝日のひとつとなる。この日は大名・小名や直参の旗本などが白帷子(しろかたびら)を着て総登城し、将軍家へ祝辞を申し述べる行事が行われた。
 ちなみに「八朔」というと、食い意地の張っている筆者などは、真っ先にミカンの仲間を思い出す。「八朔」の「朔」は月の初めの日すなわち「ついたち」の意味なので、冬に食べるミカンがなぜ「八月一日」という名前なのか長い間疑問に思っていたのだ。
 これは、「八朔」頃から果実が食べられるところからいわれたということらしいのだが、実際には、その頃はまだ果実は小さく食用に適さないようなので不思議である。スダチやユズなどのように香り付けに使うとか、何か別の用途があったのであろうか。

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