『読売新聞』の朝刊に「日本語日めくり」という、ことばに関する興味深い連載コラムがある。以前そのコラムで「ひもとく」ということばを話題にしていた(2010年3月17日付)。「ひもとく」とは「繙く・紐解く」と書き、本の損傷を防ぐために包む覆い(帙(ちつ))の紐を解く意から、元来は本を読むことをいう。その「ひもとく」に、「調べる」「解明する」といった新しい意味が広まりつつあるというのがコラムの内容である。
 コラム氏は「歴史をひもとく〔=調べる〕」という『三省堂国語辞典』の用例を広まりの根拠として引用しているが、実はこの「歴史をひもとく」という用例は、決して新しいものではない。たとえば森鴎外の『うたかたの記』や夏目漱石の『吾輩は猫である』にもその用例が見られるのである。
 『日国』や漢和辞典によれば、「史(歴史)」は、過去に起こった事象の変遷や発展の経過の意味だけでなく、それらをある観点から秩序づけて記述したものも表していたことがわかる。鴎外・漱石は「調べる」の意ではなく、「過去のことがらを記録したものを読む」という意味で使っていたものと思われる。
 もちろん、「調べる」「解明する」という用法が広まりつつあるという事実を否定するものではない。しかし、『通りをひもとくと京都がわかる』『力学でひもとく格闘技』などというような書名を見ると、どんな意味なんだろうと思ってしまう。

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