日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第71回
「ありがとう」の語源

 「ありがとう」の語源はポルトガル語の「オブリガード」から来ているという説が巷(ちまた)でけっこう話題になっているのをご存じだろうか。その逆で「ありがとう」が「オブリガード」になったという説もあるらしい。いずれにしても「アリガート」と「オブリガード」はよく似ているというのが根拠のようだ。日本人がポルトガルに行くと、しばしばそのように言われるらしい。
 だが、「ありがとう」は、形容詞「ありがたい」の連用形「ありがたく」がウ音便化した語で、ポルトガル語が日本に伝わる前から使われてきたれっきとした日本語である。ただし、日本にポルトガル船が来港し、日本人がポルトガル語と接触するようになった16世紀後半は、感謝の意味を表すことばは「ありがとう」ではなく「かたじけない」が主流であったと考えられているのだが。「ありがとう」が広まるのは江戸時代になってかららしい。
 確かに日本語の中にはカステラ、タバコ、パンなどのようにポルトガル語から取り入れられた語も少なくない。だが何となく音が似ているということだけで判断したら、映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」に出てくる、世界の言語は日本語も含めてすべてギリシア語が語源であると主張するお父さんと同じになってしまう。
 日本語を母語として使っている限りは、「こんにちは」「こんばんは」「さようなら」「おはよう」といったCMで話題になった“魔法のことば”くらいは、外国人にもちゃんと語源が説明できるようにしておきたいものだと思う。

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