日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第79回
「一段落」の正しい読みとは?

 日本語にはどっちを使うのが正しいのだろうかと迷うことばがけっこうある。筆者にとっては、この「一段落」もそのようなことばで、人と話をしていて、「いちだんらく」「ひとだんらく」どっちが正しかったんだっけ、といつも迷ってしまうのだ。
  「一段落」は元来は文章の一つの段落のことで、それが物事のひと区切りの意味になったことばである。正しい読みは「いちだんらく」なのだが、話しことばなどで筆者も含めて「ひとだんらく」と言ってしまう人が次第に増えてきている。
 そのため一般の国語辞典では、
 「ひとだんらく」と読まれることも多いが「いちだんらく」が正しい。(『現代国語例解辞典』小学館)
などとわざわざ注記しているものが多い。ただこうした中にあって『明鏡国語辞典』(大修館)だけは、初版で「いちだんらく」の同義語として「ひとだんらく」も載せてその読みを認めていた。だが何があったのか、第2版(2010年)では同義語扱いはやめて、
 「ひと段落」も増えているが、「いち段落」が本来。
という他の辞典とほとんど同じ扱いに変えてしまった。
 なぜ「ひとだんらく」という読みが増えてきたのだろうか。理由として考えられるのは、「一安心」「一苦労」など「ひと+漢語」の語がけっこうあること、類義の「一区切り」が「ひとくぎり」と読まれることなどである。
 だが、依然として新聞、テレビ・ラジオでも「ひとだんらく」は認めていないので、新聞記事やニュース番組などでそう使ったら、やはり間違いだと言わざるを得ないのである。

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