日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第99回
辞書の真ん中はどのあたり?

 まずはクイズから。
 本文ページ1200ページの国語辞典の場合、その真ん中に当たる600ページは、五十音のだいたいどの音のあたりか?
  A.五十音の「し」の最後
  B.五十音の「に」の最後
  C.辞書によって違う
答えは、Aの サ行の「し」の最後あたりである。
 前回に引き続いて「五十音図」の話になるが、五十音の真ん中はBの答えの「に」である。だが、日本語は「カ行」「サ行」で始まる語が多いので、五十音で言うとやや頭でっかちの状態になっている。従って、「に」ではなくもっと前のサ行の「し」~「す」のあたりが、五十音で分けたときの語数的には真ん中になる。たとえば、『日国』第二版の書籍版では、全13巻のうちちょうど真ん中の巻に当たる第7巻(本文1453ページ)の743ページが「し」の最後のページである。
 なぜ、このようなことになるのかというと、日本語の五十音ごとの分布を見ると、カ行、サ行の音で始まる語が圧倒的に多いからである。さらに詳しく見てみると、そのほとんどは、読みが「カン」「コウ」「ショウ」などで始まる漢語由来の語なのである。日本語はいかに漢語由来の語が多いかがわかる。
 もちろんタ行以降も漢語由来の語がないわけではない。だがその数はかなり少ない。たとえばナ行などは漢語由来の語が少ないため全体的な分量も少なく、「なおす」「流れる」「逃げる」「ぬれる」などのような和語が目立つ。
 国語辞典では「し」のおしまいが真ん中くらいになるのがバランスのいい辞典であると言える。真ん中のページになっても「し」が終わっていないとすると、本文ページがあらかじめ決まっている紙の辞書では、ガシガシ、ひたすら削ることになる。オンライン辞書や電子辞書などではそのような心配がなくなってありがたいのだが、逆に電卓を叩きながら分量計算をしていた時代が懐かしくなってくる。

キーワード: