日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第123回
《「こぢんまり」が本則》

 今回は筆者のささやかな疑問にお付き合いいただきたい。
 最近のパソコンの文書作成用ワープロソフトはたいへん親切で、「ここはこぢんまりとしたいいお店だ」と書こうとしてつい「こじんまり」と入力してしまうと、表題のような文章が出て仮名遣いの間違いを指摘してくれる。
 確かに現代語の仮名遣いのより所となっている「現代仮名遣い」(昭和61年内閣告示)では、「5 次のような語は「ぢ」「づ」を用いて書く」として、「二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」」の語例の中に「はなぢ(鼻血)」「そえぢ(添乳)」などとともに「こぢんまり」を掲げている。(「現代仮名遣い」の詳しい内容は文部科学省のホームページを参照されたい)
 だから「こぢんまり」が本則であるということに異議を差し挟む余地などないのかもしれないが、どうしてもそれで本当にいいのだろうかという疑問が消えないのである。
 というのは、一般に言われているこの語の語源説が納得できないからでもある。ふつうこの語は小さくまとまっているさまを表わす意味の「ちんまり」に「こ」がついた語だと説明されている。だが、『日本国語大辞典』を見ると、「小〆(コジンマ)り」(人情本『春色梅児誉美』〔1832~33〕)や「小締(コジンマ)り」(永井荷風『地獄の花』〔1902〕)という表記の例がある。このような例から「こ+ちんまり」ではなく、「コシマリ(小締)の音便。コは、やや意を強めていう接頭語」(『大言海』)という説もある。そうであるなら「こじんまり」で正しいことになる。
 内閣告示「現代仮名遣い」では、「現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として、それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。」という、仮名遣いはどちらでもよいとする語例も掲げている。「こぢんまり」は語源に疑問があるし、「こ+ちんまり」が正しい語源だと言ってももはやそれを理解している人も少なくなっているであろうから、この「ぢ」、「じ」、どちらでもいいというグループに入れても構わないような気がする。
 自分が正しく仮名遣いを理解していないことを棚に上げて何を言っているのだとおっしゃる方もいらっしゃるかもしれないが、「現代仮名遣い」の見直しをお願いしたいのである。

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