日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第161回
「ぐるになる」の「ぐる」は何語?

 あまりいい表現ではないのだが、「ぐるになって人をだます」というときの「ぐる」を、みなさんは平仮名、片仮名のどちらで書いているだろうか。ちゃんと調べたわけではないのだが、「グル」と片仮名書きにしている人の方が多いのではないか。もちろん強調する意味で片仮名書きにするという人もいるかもしれない。だが、何となく外来語だと思っている人もけっこういるような気がする。
 しかし、「ぐる」はれっきとした日本語なのである。お手元の国語辞典を引いていただくといいのだが、国語辞典の見出しはすべて「ぐる」と平仮名で表示されている。これこそ和語の証拠である。
 外来語だと思っている人は、ひょっとすると「グル」は「グループ」の略だという俗説に惑わされているのかもしれない。だが驚くなかれ、「ぐる」の用例は江戸時代からあるのである。
 『日本国語大辞典 第2版』には、
*浄瑠璃・鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)(1717年初演)上「目代(めしろ=目付役)になる此の乳母(うば)はぐる也」
*歌舞伎・勝相撲浮名花触(かちずもううきなのはなぶれ)(1810年初演)序幕「うぬはあの野郎と共謀(グル)だな」
という用例が引用されている。
 「ぐる」は、示し合わせてたくらみをなす仲間といった意味で、ふつうは悪事をたくらむ仲間をさしていう語である。上に引用した歌舞伎の用例のように「共謀」と書いて「ぐる」と読ませている例もある。『日本国語大辞典』で引用した用例はほとんどが浄瑠璃や歌舞伎の例なので、ひょっとすると芝居関係者の隠語だったのかもしれない。だが、実際には語源はよくわかっておらず、「なれあいの意の隠語トチグルヒの上下略か」(『大言海』)という語源説もあるがいささかあやしい。人形浄瑠璃社会の隠語として、からだにぐるりと巻く物という意味から「帯」を「ぐる」と言ったらしいが、それとの関連もわからない。
 ただ、少なくとも外来語ではなく、正真正銘の日本語だということだけは確かなのである。

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