「焦る」の新しい意味
2013年06月10日
このコラムでは辞書編集者泣かせのことばをいくつか取り上げてきたが、今回の「焦る」もそういったことばのひとつである。
たとえばみなさんは「転びそうになって焦った」とか、「取引先の部長の名前を呼び間違えそうで焦る」などと言うことはないであろうか。つまり、危険や失敗が間近に迫っているように感じて、冷や汗が出るほどひどく慌てる気持ちで「焦る」を使うかどうかということである。
実はこの「焦る」は従来なかった新しい意味なのである。そのため国語辞典では、この意味を載せていないもの、載せてはいるが俗な言い方としているものと、扱いがまちまちになっている。
では、「焦る」の本来の意味は何かというと、それは思い通りに事が運ばないので、急いでしようとして落ち着かなくなるとか、気がいらだつとかいったことである。たとえば、「残り時間あと1分と言われて焦る」「勝負を焦る」「気ばかり焦ってうまくできない」などといった使い方である。
新しい慌てるという意味の「焦る」がどれくらい一般的になっているのか、残念ながら詳しい調査がないのでわからないのだが、筆者の印象ではかなり広まっているような気がする。実際筆者も、「コケそうになって焦った」などという言い方を親しい人には使っていることがある。
用例主義の『日本国語大辞典』でも、第2版で中島梓の『にんげん動物園』(1981年)の「甘栗を買おうとして反射的に『あまつ……』と云いかけてあせることがある」という用例とともに、慌てるの意味が追加されている。この例が、慌てるの意味の初出例ではないであろうが、すでに30年以上前から使われ始めていることは確かなのである。
しかしだからと言ってどんな場所でも使ってよいということではない。辞書での扱いが異なると言うことは抵抗を感じる人も多いということでもあるので、俗語であると理解したうえで、使う場所に気をつけた方がよいと思う。
たとえばみなさんは「転びそうになって焦った」とか、「取引先の部長の名前を呼び間違えそうで焦る」などと言うことはないであろうか。つまり、危険や失敗が間近に迫っているように感じて、冷や汗が出るほどひどく慌てる気持ちで「焦る」を使うかどうかということである。
実はこの「焦る」は従来なかった新しい意味なのである。そのため国語辞典では、この意味を載せていないもの、載せてはいるが俗な言い方としているものと、扱いがまちまちになっている。
では、「焦る」の本来の意味は何かというと、それは思い通りに事が運ばないので、急いでしようとして落ち着かなくなるとか、気がいらだつとかいったことである。たとえば、「残り時間あと1分と言われて焦る」「勝負を焦る」「気ばかり焦ってうまくできない」などといった使い方である。
新しい慌てるという意味の「焦る」がどれくらい一般的になっているのか、残念ながら詳しい調査がないのでわからないのだが、筆者の印象ではかなり広まっているような気がする。実際筆者も、「コケそうになって焦った」などという言い方を親しい人には使っていることがある。
用例主義の『日本国語大辞典』でも、第2版で中島梓の『にんげん動物園』(1981年)の「甘栗を買おうとして反射的に『あまつ……』と云いかけてあせることがある」という用例とともに、慌てるの意味が追加されている。この例が、慌てるの意味の初出例ではないであろうが、すでに30年以上前から使われ始めていることは確かなのである。
しかしだからと言ってどんな場所でも使ってよいということではない。辞書での扱いが異なると言うことは抵抗を感じる人も多いということでもあるので、俗語であると理解したうえで、使う場所に気をつけた方がよいと思う。
キーワード:



出版社に入りさえすれば、いつかは文芸編集者になれるはず……そんな想いで飛び込んだ会社は、日本屈指の辞書の専門家集団だった──興味深い辞書と日本語話が満載。希少な辞書専門の編集者によるエッセイ。




辞書編集37年の立場から、言葉が生きていることを実証的に解説した『悩ましい国語辞典』の文庫版。五十音順の辞典のつくりで蘊蓄満載のエッセイが楽しめます。
「満面の笑顔」「汚名挽回」「的を得る」……従来誤用とされてきたが、必ずしもそうとは言い切れないものもある。『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年のことばの達人がことばの結びつきの基本と意外な落とし穴を紹介。
