「噴飯もの」
2013年10月21日
第141回で文字にだまされてはいけないことばとして「破天荒」について書いたが、「噴飯もの」も同様のことばなのかもしれない。
先頃発表された文化庁の平成24(2012)年度の「国語に関する世論調査」によると、「彼の発言は噴飯ものだ」というときの「噴飯もの」を、本来無かった「腹立たしくて仕方がないこと」という意味だと思っている人が49.0%もいることがわかった。もちろん、本来の意味は「おかしくてたまらないこと」で、そう答えた人は19.7%しかいなかったのである。
「噴飯」とは、思わず食べかけの飯をふき出すという意味で、「噴飯もの」とは「食べかけの飯を思わずふき出してしまうような、おかしい事柄」(『日本国語大辞典 第2版』)ということである。
まさに、ぶっとふき出すという意味なのだが、なぜこの語を「腹立たしくて仕方がないこと」という意味に取る人が多くいるのであろうか。思うにそれは「噴」という漢字にだまされているのではなかろうか。「噴」は「噴火」「噴出」「噴射」の「噴」で「ふく、はく」という意味である。これを「いきどおる」という意味の、「憤慨」「憤激」の「憤」と混同しているのかもしれない。
また、今回の文化庁の調査では、「噴飯もの」を「分からない」と答えている人が27.4%もいる点も見逃せない。聞いたことのないことばであるため意味がわからず、「噴」の字に引かれて、選択肢の最初にあった「腹立たしくて仕方がないこと」を選んだ人がかなりいる可能性も否定できないからである。
そのことばがあまり使われなくなると、意味を勝手に類推して使うようになり、やがては従来無かった新しい意味になってしまうという例でもあるのだろうか。
先頃発表された文化庁の平成24(2012)年度の「国語に関する世論調査」によると、「彼の発言は噴飯ものだ」というときの「噴飯もの」を、本来無かった「腹立たしくて仕方がないこと」という意味だと思っている人が49.0%もいることがわかった。もちろん、本来の意味は「おかしくてたまらないこと」で、そう答えた人は19.7%しかいなかったのである。
「噴飯」とは、思わず食べかけの飯をふき出すという意味で、「噴飯もの」とは「食べかけの飯を思わずふき出してしまうような、おかしい事柄」(『日本国語大辞典 第2版』)ということである。
まさに、ぶっとふき出すという意味なのだが、なぜこの語を「腹立たしくて仕方がないこと」という意味に取る人が多くいるのであろうか。思うにそれは「噴」という漢字にだまされているのではなかろうか。「噴」は「噴火」「噴出」「噴射」の「噴」で「ふく、はく」という意味である。これを「いきどおる」という意味の、「憤慨」「憤激」の「憤」と混同しているのかもしれない。
また、今回の文化庁の調査では、「噴飯もの」を「分からない」と答えている人が27.4%もいる点も見逃せない。聞いたことのないことばであるため意味がわからず、「噴」の字に引かれて、選択肢の最初にあった「腹立たしくて仕方がないこと」を選んだ人がかなりいる可能性も否定できないからである。
そのことばがあまり使われなくなると、意味を勝手に類推して使うようになり、やがては従来無かった新しい意味になってしまうという例でもあるのだろうか。
キーワード:



出版社に入りさえすれば、いつかは文芸編集者になれるはず……そんな想いで飛び込んだ会社は、日本屈指の辞書の専門家集団だった──興味深い辞書と日本語話が満載。希少な辞書専門の編集者によるエッセイ。




辞書編集37年の立場から、言葉が生きていることを実証的に解説した『悩ましい国語辞典』の文庫版。五十音順の辞典のつくりで蘊蓄満載のエッセイが楽しめます。
「満面の笑顔」「汚名挽回」「的を得る」……従来誤用とされてきたが、必ずしもそうとは言い切れないものもある。『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年のことばの達人がことばの結びつきの基本と意外な落とし穴を紹介。
