采配は“振る”のか“振るう”のか?
2014年03月10日
「采配(さいはい)」とは、大将が軍勢の指揮をとるときの持ち物のことで、柄の先に裂いた白紙などを束ねて、房状に取り付けたものが多い。これを手にした指揮官が、それを振り動かして合図をしたところから、「采配を振る」「采配を取る」という言い方が生まれ、陣頭に立って指図をする、指揮をするという意味になった。
ところでこの「采配を振る」だが、近年になって従来なかった「采配を振るう」という言い方が広まっているのである。
文化庁が発表した2008(平成20)年度の「国語に関する世論調査」でも、従来の「采配を振る」を使う人が28.6パーセント、「采配を振るう」を使う人が58.4パーセントという逆転した結果となり、「振るう」派が完全に「振る」派を圧倒してしまったのである。
『日本国語大辞典』でも第2版になって、初版にはなかった井上靖の以下の例が加わり、それによって「采配を振るう」の形も認めるようになってしまった。
「その下で編輯(へんしゅう)の采配を揮ふばかりでなく」(『闘牛』1949年)
「揮ふ」は「ふるう」と読み、歴史的仮名遣いでは「ふるふ」である。
この例のみで「采配を振るう」を認めるのは、いささか時期尚早である気もしないではないが、「ふるう」を無視できなくなっているのは確かだ。
そもそも「ふるう(揮)」とは、思うままに取り扱う、棒状のものを縦横に駆使して用いる、という意味なので、「采配」に「ふるう」を使ってもあながち間違っているとは言えない気もする。ちなみに、「ふる」は、全体を前後または左右に数回すばやく動かすという意味である。
「ふる」「ふるう」は、音も似ているし意味も近いため混同してしまったのであろう。だが、「采配をふるう」が『日本国語大辞典』以外の他の辞書に登録される日も、そう遠くない気がする。
ところでこの「采配を振る」だが、近年になって従来なかった「采配を振るう」という言い方が広まっているのである。
文化庁が発表した2008(平成20)年度の「国語に関する世論調査」でも、従来の「采配を振る」を使う人が28.6パーセント、「采配を振るう」を使う人が58.4パーセントという逆転した結果となり、「振るう」派が完全に「振る」派を圧倒してしまったのである。
『日本国語大辞典』でも第2版になって、初版にはなかった井上靖の以下の例が加わり、それによって「采配を振るう」の形も認めるようになってしまった。
「その下で編輯(へんしゅう)の采配を揮ふばかりでなく」(『闘牛』1949年)
「揮ふ」は「ふるう」と読み、歴史的仮名遣いでは「ふるふ」である。
この例のみで「采配を振るう」を認めるのは、いささか時期尚早である気もしないではないが、「ふるう」を無視できなくなっているのは確かだ。
そもそも「ふるう(揮)」とは、思うままに取り扱う、棒状のものを縦横に駆使して用いる、という意味なので、「采配」に「ふるう」を使ってもあながち間違っているとは言えない気もする。ちなみに、「ふる」は、全体を前後または左右に数回すばやく動かすという意味である。
「ふる」「ふるう」は、音も似ているし意味も近いため混同してしまったのであろう。だが、「采配をふるう」が『日本国語大辞典』以外の他の辞書に登録される日も、そう遠くない気がする。
キーワード:



出版社に入りさえすれば、いつかは文芸編集者になれるはず……そんな想いで飛び込んだ会社は、日本屈指の辞書の専門家集団だった──興味深い辞書と日本語話が満載。希少な辞書専門の編集者によるエッセイ。




辞書編集37年の立場から、言葉が生きていることを実証的に解説した『悩ましい国語辞典』の文庫版。五十音順の辞典のつくりで蘊蓄満載のエッセイが楽しめます。
「満面の笑顔」「汚名挽回」「的を得る」……従来誤用とされてきたが、必ずしもそうとは言い切れないものもある。『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年のことばの達人がことばの結びつきの基本と意外な落とし穴を紹介。
