日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第241回
「画龍点睛」の「画龍」は何と読む?

 表題の「画龍(竜)点睛(てんせい)」の「画龍」を、皆さんは「がりゅう」「がりょう」どちらで読んでいるだろうか。お手元に国語辞典があったらご覧いただきたいのだが、ほとんどの辞典は「がりょう」と読ませているのではないか。『大辞泉』などは、「がりゅう」とは読まないとまで言い切っている。NHKも「がりゅう」は誤りだとしている(『NHKことばのハンドブック』)
 「りょう」「りゅう」の違いは何かというと、「りょう」は漢音、「りゅう」は慣用音ということになる。慣用音は中国本来の漢字音ではなく日本で広く使われている漢字音なので、「りょう」の方が伝統的な読みと言える。
 ただ、実際には「りゅう」の読みもかなり古くから見られる。『日本国語大辞典』にも平安初期に成立した『竹取物語』の、

「はやてもりうのふかする也」

という「りう(=りゅう)」と読む例が引用されている。「はやて(疾風=急に激しく吹く風)も、りう(龍=りゅう)が吹かせているのです」という意味である。やはり平安時代のもので、『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』(1177~81年成立)という辞書にも、「龍」には「りう(=りゅう)」「りょう」両方の読みが示されているので、平安時代にはすでに両用の読みが存在していたのであろう。
 ただし、単独で想像上の動物を言うときは、現在では「りゅう」のほうが一般的だと思われる。一方「龍」が含まれる熟語はと言うと、ふつうは「りゅう」とも「りょう」とも読まれている。ではなぜ「画龍点睛」だけが「りょう」でなければいけないのかというと、この語は中国の故事から生まれた四字熟語だからかもしれない。
 なお蛇足ではあるが、「点睛」の「睛」は「晴」ではないので注意が必要である。また、「画龍点睛をかく」と言った場合、「かく」は「欠く」と書き「書く」ではないので、こちらも要注意である。

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