日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第275回
「夕焼け小焼け」の「小焼け」って何?

 『夕焼け小焼け』(詞:中村雨紅)という童謡は、ほとんどの方がご存じであろう。だが、タイトルにもある「小焼け」っていったいどういう意味なのかと疑問に思ったことはないだろうか。
 「小焼け」だから、夕焼けになりかかった状態のことだろう、などと想像した方もいらっしゃるかもしれない。それなら国語辞典に「小焼け」が載っていてもよさそうなものだが、ほとんどの辞典に「小焼け」は載っていない。
 『日本国語大辞典』(以下『日国』)には「夕焼小焼」の形で見出し語がある。それには、

 (「こやけ」は、語調を整えるために添えたもの)「ゆうやけ(夕焼)」に同じ。

と説明されている。つまり「小焼け」はそれ自体あまり意味をもたない語だというのである。さらに北原白秋の「お祭」という童謡が初出例として引用されている。

 「真赤だ、真赤だ。夕焼小焼(ゆうやけこやけ)だ」

 この童謡の発表は1918年である。中村雨紅の『夕焼け小焼け』はその5年後の1923年であるから、「夕焼け小焼け」は北原白秋の造語だった可能性もある。
 童謡詩人で童謡の研究家でもあった藤田圭雄(たまお)(1905~99)は『童謡の散歩道』という著書の中で、この「小焼け」は、「日本語のような音数律の詩の場合、リズムを整えるために、意味のない枕言葉だとか対語が使われます」と述べて、わらべうたの中にも「大寒小寒」「大雪小雪」など例句はたくさんあると指摘している。また、北原白秋にも「栗鼠栗鼠小栗鼠(りすりすこりす)」「涼風小風(すずかぜこかぜ)」「仲よし小よし」など同様の例がたくさんあると述べている。
 揚げ足を取るつもりはないのだが、これらのわらべうたや白秋の例は語調を整えるということでは共通しているが、成り立ち自体はかなり異なる気がする。たとえば「大寒小寒」だが、この「大」はもともとは感動詞の「おお」だったという説もある。「おお!寒い!」というわけだ。この「おお」が「大」になり、「大」に対する「小」がついて「大寒小寒」になったという説明もできるのである。
 また、白秋の例の「涼風小風(すずかぜこかぜ)」だが、「涼風」はもちろんすずしい風のことだが、「小風」も意味のない語ではない。そよ風のことなのである。つまり白秋はすずしい風とそよ風をリズムよく並べたことになる。
 「仲よし小よし」だけは「小よし」には意味がないので、成り立ち的には「夕焼け小焼け」に一番近いかもしれない。
 ところで、「小焼け」は「夕焼け」につくのだから「朝焼け」にもつけられるだろうと考えた童謡詩人がいた。金子みすゞ(1903~30)である。皆さんもよくご存じの「朝焼小焼だ 大漁だ」で始まる『大漁』(1924年)という詩がそれである。

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