日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第319回
「領収書」か「領収証」か?

 お店のレジで代金を払い金銭を受け取ったしるしが欲しいときに、「リョーシューショをください」と言っているだろうか。あるいは、「リョーシューショーをください」と言っているだろうか。「リョーシューショ」「リョーシューショー」どっちだっけ、と思いつつ、何となく「リョーシューショ」と言っている人が多いかもしれない。だが、そんな人でも、店員さんから渡された紙片に「リョーシューショー」、つまり「領収証」と書かれていても、あれ?とは思わないであろう。
 だが、よくよく考えてみれば「リョーシューショ」は「領収書」で、「リョーシューショー」は「領収証」だから、漢字表記が異なるわけで、意味も「書」と「証」とでは違いがありそうである。
 漢字の違いから言えば、「領収書」は受け取ったことを証明した書類ということであり、「領収証」は受け取ったことの「証(あかし)」ということになるであろう。
 しかし、結論を先に述べてしまうと「領収書」も「領収証」も実際にはほとんど同じ意味で使われているのである。
 だったら、そんなことどうでもいいのではないかとお思いになる方も大勢いらっしゃるであろう。確かにその通りではあるのだが、わざわざ取り上げたのは、こんなことも辞書編集者を悩ませていることばだということを知っていただきたかったからである。と言うのは、辞書によって、「領収書」「領収証」のどちらを見出し語とするか、実はまちまちなのである。
 主な国語辞典の見出し語の立て方は、以下のように分けられる。

領収書:広辞苑 大辞林 新明解国語辞典 三省堂国語辞典 明鏡国語辞典 新選国語辞典
領収証:岩波国語辞典
領収書・領収証 両方:大辞泉 日本国語大辞典 現代国語例解辞典

 法律はどうかというと、たとえば、現行の「印紙税法」では別表第一に、課税物件表というものがあり、その物件名の16「配当金領収証又は配当金振込通知書」には、「配当金領収証とは、配当金領収書その他名称のいかんを問わず、配当金の支払を受ける権利を表彰する証書又は配当金の受領の事実が証するための証書をいう。」とある。すなわち、「領収証」「領収書」という名称をどちらも認めているのである。
 ちなみに私の手元にある大手文具メーカーのものは、「領収証」と書かれている。
 一般的な印象としては「領収書」の方が優勢に思えるが、やはりどちらでもいいということになるのであろう。

News 1  神永さんの著書『悩ましい国語辞典』の文章がラジオで朗読!
「日本語、どうでしょう?」の記事がもとになった神永さん初の著書『悩ましい国語辞典―辞書編集者だけが知っていることばの深層―』がラジオ日本の番組「わたしの図書室」で朗読されます。日本テレビの井田由美アナウンサーが朗読を担当。井田アナの美声で、神永さんの文章がどう読まれるのか、こうご期待!
○ラジオ日本 6月23日(木)&30日(木)23:30~24:00
○四国放送 6月25日(土)&7月2日(土)5:00~5:30
○西日本放送 6月26日(日)&7月3日(日)23:00~23:30!
くわしくはこちら→ラジオ日本「わたしの図書室」

News 2 神永さんがジャパンナレッジ講演会に登場!
「初老は何歳から?」「弱冠は何歳から何歳まで使えるの?」「夕焼け小焼けの“小焼け”って何?」「明治時代に出現した謎の携帯電話とは?」──昔と今では意味が違う言葉がいっぱい! 目まぐるしく変わる日本語、それに対応する辞書編集の現場について神永さんが解説!

日比谷カレッジ第九回ジャパンナレッジ講演会
「編集者を悩ませる、日本語④“悩ましく”も面白いことばの世界」
■日時:2016年7月28日(木)19:00~20:30(18:30開場)
■会場:日比谷図書文化館4階スタジオプラス(小ホール)■定員:60名■参加費:1000円
■お申し込み:日比谷図書文化館1階受付、電話(03-3502-3340)、eメール(college@hibiyal.jp)にて受付。
くわしくはこちら→日比谷図書文化館

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