日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第324回
「年中行事」

 毎年一定の時期に慣例として行なわれる行事や儀式を「年中行事」と言うが、皆さんはこの「年中行事」を何と言っているだろうか。「ねんちゅうぎょうじ」だろうか、あるいは「ねんじゅうぎょうじ」であろうか。
 「年中行事」の読みは、辞書の世界でも、テレビラジオなどの放送の世界でも揺れているのである。
 一般的な国語辞典では「ねんちゅうぎょうじ」で見出し語を立てているものがほとんどなのだが、歴史事典や百科事典などは「ねんじゅうぎょうじ」と読ませているものが多い。また、『NHKことばのハンドブック』を見ると、ネンジューギョージを第1の読み、ネンチューギョージを第2の読みにしているので、NHKのアナウンサーは「ねんじゅうぎょうじ」派が多いのかもしれない。
 歴史事典や百科事典に「ねんじゅうぎょうじ」とするものが多いのは、「年中行事」は今でこそ民間で行われる行事や祭礼のことを言っているが、元来は宮中の公事(くじ)、すなわち公に行われる儀式のことで、古くはこれらを描いた『年中行事絵巻』という絵巻物や、朝廷の年中行事を多くの古記を元に解説した『年中行事秘抄』といった文献が残されているからかもしれない。これらはいずれも「ねんじゅうぎょうじえまき」「ねんじゅうぎょうじひしょう」と読みならわされている。NHKが「ねんじゅうぎょうじ」を優先させているのは、こうしたことを根拠にしているのだろうか。
 ただ、「ねんちゅうぎょうじ」と「ねんじゅうぎょうじ」とでは、どちらが古い読みなのかはよくわかっていない。『日本国語大辞典』には「年中行事」の使用例は平安時代のものからあるのだが、残念ながら何と読んでいたのかわからないからである。
 このように読みが揺れているということは、どちらで読んでもかまわないと言うことになるのかもしれない。ただ「年中行事」以外の、「年中無休」や「年中忙しがっている」のようなときは、「ねんじゅう」と言う方が多いようである。

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