第376回
「パーマ屋」は死語?

 かれこれ18、9年も前の話である。定年で退職した上司の家に、編集部の仲間と遊びに行ったことがある。そのとき、上司が送ってくれた最寄り駅からの地図に、「パーマ屋の先」という記述があった。これを見た編集部の女性たちは大いに受けていた。「パーマ屋」なんて死語なんじゃないかと。上司は私よりも18歳年上だが、私も無意識につい「パーマ屋」と言ってしまう方なので、大笑いする女性たちを見て、これは油断してはいけないと思った。
 若い世代にはなじみのないことばかもしれないが、「パーマ屋」は今の美容院のことである。
 なぜ美容院を「パーマ屋」と言うのかというと、実に単純でパーマをかける店だからである。パーマはもともとはパーマネントウエーブの略なのだが、今となってはこのパーマネントウエーブということば自体、いささか古めかしい感じがしないでもない。
 『日本国語大辞典(日国)』によれば、「パーマネントウエーブ」は昭和初期に多用され、その省略形「パーマネント」は昭和初期から昭和30年代ころまで用いられていた。さらに略した「パーマ」は戦後になって使用例が目に付くようになり、「パーマネント」と入れ替わるように30年代以降に一般的になっていく。従って『日国』に載せられた「パーマ屋」の例は比較的新しい。こんな例だ。

*忘却の河〔1963〕〈福永武彦〉一「わたしくさくさするから今日パーマ屋に行って来たのよ」

 「パーマネントウエーブ」の方はどうかと言うと、

*モダン化粧室〔1931〕〈ハリー牛山〉「今此処で述べますのは現在一般に行はれてゐる様なパーマネント・ウエーブではありません」
*銀座八丁〔1934〕〈武田麟太郎〉「誰も彼もパーマネント・ウェーヴをかけた派手な髪をしてゐるのに」

と、2例とも「パーマ屋」の例よりも古い。

 ちなみに、パーマネントは、英permanentからで、元来は永久の、長持ちするなどの意味である。

*落葉日記〔1936~37〕〈岸田国士〉九・五「パーマネントをかけた断髪」
*二閑人交游図〔1941〕〈上林暁〉三「パアマネントの若い娘のゐる酒場」
*浮雲〔1949~50〕〈林芙美子〉三二「パアマネントした固い髪の毛」

と、こちらもパーマよりも古い。ちなみにパーマのもっとも古い例は、

*夢声戦争日記〈徳川夢声〉昭和一八年〔1943〕九月二六日「娘たち、最後のパーマネントへ出かける(もう電力の節約でパーマは許されなくなる)」

第二次世界大戦中の例で、内容も時代を感じさせるものだ。

 今使われる「美容院」だが、『日国』で引用されているのは

*まんだん読本〔1932〕漫劇「ロボット」〈松浦翠波〉「やれ美容院(ビヨウイン)は贅沢だから止めろの、ストッキングは見へない処はつぎを当てて使への」

というものである。
 だが、それよりもわずかながら古い、桃井鶴夫編の新語辞典『アルス新語辞典』(1930年)の「ビューティー・パーラー 英 beautyparlour 美容院」という例がある。パーマ屋よりも美容院の例の方が古いところが面白い。

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