第377回
「おみおつけ」を漢字で書くと

 お手元のパソコンのワープロソフトで、「みそ汁」のことをいう「おみおつけ」と入力して変換すると、どう表示されるだろうか。私のものは「御御御付け」と変換される。「ゴゴゴつけ」というわけではなく、「御」という漢字は「お」「み」とよむので、「おみお」の部分が「御御御」だというのであろう。だが、本当に「おみおつけ」の表記はそれでいいのだろうか。
 『日本大百科全書(ニッポニカ)』で「みそ汁」の項目を引いてみると、興味深いことが書かれている。以下のような内容だ。

 「ご飯につけるみそ汁の女房詞(ことば)『おつけ』に、さらにていねい語、尊敬語の「御御(おみ)」をつけて御御御汁(おみおつけ)としたもので、敬語が三つも重ねられているのは、よほどその価値を高く評価したのであろう」

 この百科事典は署名原稿で、河野友美氏と多田鉄之助氏の連名になっている。お二人とも著名な食品研究家であるが、すでに故人である。
 かつては確かにこのような説は存在し、「御御御付け」という表記を示していた辞書もあった。だが私が調べた限りでは、現在「おみおつけ」の表記を「御御御付け」としているのは『大辞林』だけである。他は以前は「御御御付け」としていたものも、「御味御付け」とするか、あるいは、漢字表記なし(つまり仮名書き)にしているものばかりである。『広辞苑』も第6版では「御御御付け」であったが、最新版の第7版では「御味御付け」に変更した。なぜこのような違いが生じたのか。
 現在、「おみおつけ」は、「おみ」と「おつけ」に分けることができるという考え方が主流である。ともに女房ことばで、「おみ」の「み」は味噌のことでそれを丁寧に言った語、「おつけ」の「つけ」は本膳で飯に並べて付ける意から、吸い物の汁のことで、やはりそれを丁寧に言った語だというのである。女房ことばとは、室町時代初期頃に御所に仕える女性たちが使い始めた語で、のちにそれが広く広まったものである。
 『日本国語大辞典』には「おみ」も「おつけ」も室町時代から江戸時代の使用例が引用されている。だとすると、「やはり敬語を三つも重ねた」というのはかなり無理がある。「御御御付け」という表記が絶対に誤りだとは言えないまでも、語の成り立ちを考えるのなら、「御味御付け」と書くか仮名書きにする方が妥当であろう(『大辞林』も「おみ」は味噌を丁寧にいう近世女性語だという説は載せている)。
 なお、江戸時代の随筆『守貞漫稿』(1837~53年)に興味深い記述がある。

 「今俗京坂はすまし及みそ汁ともに露(つゆ)と云也。女詞なるべし。今江戸にて露と云はすまし也。味噌汁をおみをつけと云也」

 このことから「おみおつけ」はもともと江戸での言い方だった可能性が考えられる。
 「おみおつけ」のような普通に使われていることばでも、ことばの研究は進んでいるのである。

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