第89回
スズランの異名
2011年12月26日
スズランの異名をご存じだろうか? 筆者も知らなかったのだが、「きみかげそう」というらしい。漢字で書くと「君影草」。
その名を知ったのは、ある読者からのお手紙であった。その方は亡くなられた奥様の追悼文集を執筆なさっていて、文中で奥様のことを、奥様が愛したスズランの異名「君影草」と呼びたいとお考えになったらしい。そしてその呼び名の根拠として、『日本国語大辞典』でも引用している植物学者松村任三が編纂した『日本植物名彙』(1884年刊)の用例の該当個所を教えてもらえないだろうか、というお便りをいただいたのである。
「君影草」なんていい名だな、と思いながら早速編集部にある『日本植物名彙』を見て、はたと困惑してしまった。辞典では引用していない部分にローマ字で「kimikakesō」とあるではないか。つまり、「キミカゲソウ」ではなく、「キミカケソウ」だった可能性がでてきたのだ。
辞典の内容に関わることなので、いろいろと調べてみることにした。すると、「キミカケソウ」の古い例は『草木弄葩抄(そうもくろうはしょう)』(1735刊)で、これには「君かけ草」とある。漢字で書くと「君懸(掛)草」であろうか。
また「キミカゲソウ」は、確認できたのは『稿本草木図説』(1845~65頃)が最も古い例であった。
江戸時代の文献は清音濁音の区別を付けないものがあるので、「キミカケ」になっていても「キミカゲ」の可能性も十分あるのだが、『日本植物名彙』のローマ字表記を見る限り、かなり早い時期から「キミカケ」「キミカゲ」両用あったことが判明した。
「君影草」と「君懸(掛)草」。清濁の違いはあるが、どちらもきれいな名である。
その後、その読者からは、いまだに奥様に“懸想”しているので、「君懸草」としたいというお手紙をいただいた。
『日本国語大辞典』の語釈にも少し手を加えなければならない。
その名を知ったのは、ある読者からのお手紙であった。その方は亡くなられた奥様の追悼文集を執筆なさっていて、文中で奥様のことを、奥様が愛したスズランの異名「君影草」と呼びたいとお考えになったらしい。そしてその呼び名の根拠として、『日本国語大辞典』でも引用している植物学者松村任三が編纂した『日本植物名彙』(1884年刊)の用例の該当個所を教えてもらえないだろうか、というお便りをいただいたのである。
「君影草」なんていい名だな、と思いながら早速編集部にある『日本植物名彙』を見て、はたと困惑してしまった。辞典では引用していない部分にローマ字で「kimikakesō」とあるではないか。つまり、「キミカゲソウ」ではなく、「キミカケソウ」だった可能性がでてきたのだ。
辞典の内容に関わることなので、いろいろと調べてみることにした。すると、「キミカケソウ」の古い例は『草木弄葩抄(そうもくろうはしょう)』(1735刊)で、これには「君かけ草」とある。漢字で書くと「君懸(掛)草」であろうか。
また「キミカゲソウ」は、確認できたのは『稿本草木図説』(1845~65頃)が最も古い例であった。
江戸時代の文献は清音濁音の区別を付けないものがあるので、「キミカケ」になっていても「キミカゲ」の可能性も十分あるのだが、『日本植物名彙』のローマ字表記を見る限り、かなり早い時期から「キミカケ」「キミカゲ」両用あったことが判明した。
「君影草」と「君懸(掛)草」。清濁の違いはあるが、どちらもきれいな名である。
その後、その読者からは、いまだに奥様に“懸想”しているので、「君懸草」としたいというお手紙をいただいた。
『日本国語大辞典』の語釈にも少し手を加えなければならない。
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