第353回
2017年04月24日
少し長いのだが、以下の新聞記事をお読みいただきたい。
政府は8日、学校法人「森友学園」が運営する塚本幼稚園(大阪市)を安倍晋三首相夫人の昭恵氏が訪れた際に同行した政府職員について「公務だった」と説明し、「私的活動」としていた先の国会答弁を訂正した。土生栄二内閣審議官が同日の衆院経済産業委員会で、民進党の今井雅人氏の質問に答えた。
昭恵氏は2015年9月に同幼稚園で講演。随行した職員について、土生氏は3日の衆院国土交通委員会で「勤務時間外であり、私的活動だ。公費で出張した事実はない」と答弁していた。しかし、8日の経産委では一転して「連絡調整を行うために公務として同行した」と説明。「事実確認をしていなかった。おわびして訂正したい」と陳謝した。(2017年3月8日「時事通信」)
のっけからこのような記事を引用したのは、別にこの記事に関連する学校法人「森友学園」への国有地売却問題を論じたいと思ったわけではない。この記事の中に、同じような意味で使われている「随行」が1回、「同行」が2回出てくる点に注目していただきたかったのである。実は、この土生栄二内閣審議官の答弁を報じた新聞記事の多くは、ほぼ同じように「随行」と「同行」が混在していたのである。
いったい、「随行」「同行」には意味の違いがあるのであろうか。
『日本国語大辞典』(『日国』)によれば、「随行」の意味は「地位の高い人の供としてつき従って行くこと。」であり、「同行」は「つれだって行くこと。」とある。つまり、『日国』の語釈を見る限り、「随行」は主たる任務を帯びたものにつきしたがって行動を共にするという意味合いがありそうだが、「同行」には行動を共にする者同士の上下関係はないと考えられる。だとすると、新聞記事で同じ政府職員の行動を「随行」と表現したり、「同行」と表現したりしているのはどのようなわけなのであろうか。
勘ぐった見方をすると、この記事が伝える内容の場合、政府職員が首相夫人に随行するのか同行するのかで、かなり意味が異なるように思われる。この記事をよく読んでみると、政府の見解では「同行」と表現しているのに対して、記者が書いた部分は「随行」と表現しているからである。そういえば首相夫人が公人であるか私人であるかということが問題となっていた。
政府は「同行」という表現にこだわったのかもしれないが、法令を見る限り、公務員に関して「随行」か「同行」かということに関しての細かな規定があるわけではない。たとえば、国家公務員倫理審査会事務局による「国家公務員倫理規程事例集(平成24年増補版)」に、
〔大臣に随行する国際会議における宿泊料〕
問36 海外において開催される会議に当省の大臣が出席することとなっており、一般職の国家公務員である秘書1名が職務として随行する予定である。
などという使用例があるだけである。
また「同行」に関しては、同規定集の質疑応答集に以下のような使用例があるだけである。
問44 利害関係者と共に旅行をすることが認められている「公務のための旅行」とは、どのような場合か。
答 出張命令が出されていて、利害関係者の同行が公務に必要な場合である。
ただ、これらの使用例を見ると、意味の違いについては何ら触れられていないものの、上下関係がわかる使われ方をしているのは「随行」のほうだということが読み取れるであろう。
だとすると冒頭の新聞記事で政府が「同行」を使ったのは、上下関係がなかったということを示唆しようとして、意図的に「同行」を使ったのではないかという気がしてくる。
この記事の「随行」と「同行」の使い分けは、いろいろと想像をかきたてるものであった。
政府は8日、学校法人「森友学園」が運営する塚本幼稚園(大阪市)を安倍晋三首相夫人の昭恵氏が訪れた際に同行した政府職員について「公務だった」と説明し、「私的活動」としていた先の国会答弁を訂正した。土生栄二内閣審議官が同日の衆院経済産業委員会で、民進党の今井雅人氏の質問に答えた。
昭恵氏は2015年9月に同幼稚園で講演。随行した職員について、土生氏は3日の衆院国土交通委員会で「勤務時間外であり、私的活動だ。公費で出張した事実はない」と答弁していた。しかし、8日の経産委では一転して「連絡調整を行うために公務として同行した」と説明。「事実確認をしていなかった。おわびして訂正したい」と陳謝した。(2017年3月8日「時事通信」)
のっけからこのような記事を引用したのは、別にこの記事に関連する学校法人「森友学園」への国有地売却問題を論じたいと思ったわけではない。この記事の中に、同じような意味で使われている「随行」が1回、「同行」が2回出てくる点に注目していただきたかったのである。実は、この土生栄二内閣審議官の答弁を報じた新聞記事の多くは、ほぼ同じように「随行」と「同行」が混在していたのである。
いったい、「随行」「同行」には意味の違いがあるのであろうか。
『日本国語大辞典』(『日国』)によれば、「随行」の意味は「地位の高い人の供としてつき従って行くこと。」であり、「同行」は「つれだって行くこと。」とある。つまり、『日国』の語釈を見る限り、「随行」は主たる任務を帯びたものにつきしたがって行動を共にするという意味合いがありそうだが、「同行」には行動を共にする者同士の上下関係はないと考えられる。だとすると、新聞記事で同じ政府職員の行動を「随行」と表現したり、「同行」と表現したりしているのはどのようなわけなのであろうか。
勘ぐった見方をすると、この記事が伝える内容の場合、政府職員が首相夫人に随行するのか同行するのかで、かなり意味が異なるように思われる。この記事をよく読んでみると、政府の見解では「同行」と表現しているのに対して、記者が書いた部分は「随行」と表現しているからである。そういえば首相夫人が公人であるか私人であるかということが問題となっていた。
政府は「同行」という表現にこだわったのかもしれないが、法令を見る限り、公務員に関して「随行」か「同行」かということに関しての細かな規定があるわけではない。たとえば、国家公務員倫理審査会事務局による「国家公務員倫理規程事例集(平成24年増補版)」に、
〔大臣に随行する国際会議における宿泊料〕
問36 海外において開催される会議に当省の大臣が出席することとなっており、一般職の国家公務員である秘書1名が職務として随行する予定である。
などという使用例があるだけである。
また「同行」に関しては、同規定集の質疑応答集に以下のような使用例があるだけである。
問44 利害関係者と共に旅行をすることが認められている「公務のための旅行」とは、どのような場合か。
答 出張命令が出されていて、利害関係者の同行が公務に必要な場合である。
ただ、これらの使用例を見ると、意味の違いについては何ら触れられていないものの、上下関係がわかる使われ方をしているのは「随行」のほうだということが読み取れるであろう。
だとすると冒頭の新聞記事で政府が「同行」を使ったのは、上下関係がなかったということを示唆しようとして、意図的に「同行」を使ったのではないかという気がしてくる。
この記事の「随行」と「同行」の使い分けは、いろいろと想像をかきたてるものであった。
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