日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。


 菊池寛の『父帰る』(1917年発表)という戯曲をご存じだろうか。妻子を捨てて情婦と出奔した父親が、20年後に落ちぶれて帰ってきたために、家族一人ひとりに生じる複雑な心情を描いた作品である。母親と次男は父を迎え入れようとするが、家族の父親代わりでさんざん苦労をしてきた長男は父親を拒絶する。消沈して再び家から去ろうとする父親の独白にこんな一節がある。
 「夜になると毎晩家の前で立っ

キーワード:


 現在使用しているスマートフォンで「あくどい」と書こうとして、文字変換の候補に「悪どい」が出てきて驚いたことがある。第169回で「潔い」を「いさぎ良い」だと思っている人がいると書いたが、「あくどい」の場合は「あく」を「悪」だと思っている人がけっこういるということなのだろうか。
 お手もとに国語辞典があったら、「あくどい」を引いてみて欲しい。「悪どい」などという表記は示されていないはずであ

キーワード:

第172回
 

 「真逆」と書いて、「まぎゃく」と読む。「まさか」ではない。後に様が付くと、「まさかさま(まっさかさま)」になるがそれとも違う。
 「まぎゃく(真逆)」は2002、03年頃から急に使われるようになり、2004年の流行語大賞の候補にもなったことばである。なぜその頃からはやり始めたのかよくわかっていないのだが、一気に広まった感がある。
 こうした状況を受けて、平成23年(2011年

キーワード:


 NHKが主催する全国高校放送コンテストという、高校や専門学校などを対象とした学内放送のコンテストがある。今年も7月下旬に全国大会が行われているので、各部門の優勝校はすでに決まっているはずである。
 今年の春先にそのコンテストにエントリーする予定だという関西の高校から電話があった。「やばい」という語の語源について、話をして欲しいというのである。ラジオドキュメント部門に出品する作品を制作し

キーワード:


 先ずは問題である。次の2つの文章の違いがおわかりだろうか。
 憲法とは、国家の統治体制の基礎を定める根本法である。
 憲法とは,国家の統治体制の基礎を定める根本法である。
 なあんだ、と思いになった方も大勢いらっしゃると思う。違いは、「憲法とは」のあとにくる記号が「、」か「,」かということだけなのだ

キーワード: