第333回
2016年10月03日
ご飯やみそ汁などを器に盛ることを、何と言っているであろうか。
「よそう」だろうか、あるいは「よそる」だろうか。他にも「盛る」や、「つぐ」と言っているという方もいらっしゃるかもしれない。
だが、今回話題にしたいのは「よそう」か「よそる」かということである。
私のまわりにも、「ご飯をよそる」と言っている人がけっこう多い気がする。しかし、本来の言い方は「よそう」である。漢字で書くと「装う」、つまり服装や用具などを整えて身支度をするという意味が原義である。現代語では衣服などの場合は「よそう」が変化した「よそおう」を使うことが多いが。
「よそう」は、飲食物を整え、用意するという意味から、飲食物を器に整えて盛るという意味になり、さらに飲食物を器に盛るという意味に変化して、現代語の意味になっていった。
一方の「よそる」は、「よそう(装)」と、「もる(盛)」とが混交したものと考えられている。ことばとしては「よそう」よりも新しいが、ヘボン式ローマ字つづりで有名なアメリカ人宣教師ヘボンが編纂した和英辞典の第3版に当たる『改正増補和英語林集成』(1886年)に、「Yosoru ヨソル」とあることから、明治前期には使われていたことがわかる。
「よそる」の例は文学作品などでもけっこう見かけるのだが、国語辞典の扱いはというと必ずしも好意的でないものもある。『日本国語大辞典』や『大辞泉』『広辞苑』『大辞林』などではさすがに見出し語を立てているが、小型の国語辞典になると私が調べた限りでは『現代国語例解辞典』『三省堂国語辞典』『岩波国語辞典』くらいしか「よそる」を見出し語に立ててはいない。「よそる」を載せていない辞典は、俗語的だと考えているのであろうか。またNHKの『日本語発音アクセント新辞典』にも「よそる」はない。
東京女子大学の篠崎晃一教授によれば「よそる」は関東を中心に優勢だという(『出身地(イナカ)がわかる方言』篠崎晃一+毎日新聞社 幻冬舎文庫)。ただし、東京と千葉は「よそう」が優勢で、関西も「よそう」が強いらしい。ちなみに、他の言い方として冒頭で示した「つぐ」は継ぎ足すという意味から派生したと思われるが、篠崎教授によれば中四国と九州で優勢だという。
★神永曉氏、語彙・辞書研究会「辞書の未来」に登場!
「日本語、どうでしょう?」の著者、神永さんが創立25周年の語彙・辞書研究会の第50回記念シンポジウムにパネリストとして参加されます。現代の日本において国語辞書は使い手の要望に十分応えられているのか? 電子化の時代に対応した辞書のあり方とは一体どういうものなのか? シンポジウム「辞書の未来」ぜひご参加ください。
語彙・辞書研究会第50回記念シンポジウム「辞書の未来」
【第1テーマ】日本語母語話者に必要な国語辞書とは何か
[パネリスト]
小野正弘(明治大学教授)
平木靖成(岩波書店辞典編集部副部長)
【第2テーマ】紙の辞書に未来はあるか
――これからの「辞書」の形態・機能・流通等をめぐって
[パネリスト]
林 史典(聖徳大学教授)
神永 曉(小学館 出版局「辞書・デジタルリファレンス」プロデューサー)
日時 2016年11月12日(土) 13時15分~17時
会場 新宿NSビル 3階 3J会議室
参加費【一般】1,800円【学生・院生】1,200円 (会場費・予稿集代等を含む)
くわしくはこちら→http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/goijisho/50/index.html
「よそう」だろうか、あるいは「よそる」だろうか。他にも「盛る」や、「つぐ」と言っているという方もいらっしゃるかもしれない。
だが、今回話題にしたいのは「よそう」か「よそる」かということである。
私のまわりにも、「ご飯をよそる」と言っている人がけっこう多い気がする。しかし、本来の言い方は「よそう」である。漢字で書くと「装う」、つまり服装や用具などを整えて身支度をするという意味が原義である。現代語では衣服などの場合は「よそう」が変化した「よそおう」を使うことが多いが。
「よそう」は、飲食物を整え、用意するという意味から、飲食物を器に整えて盛るという意味になり、さらに飲食物を器に盛るという意味に変化して、現代語の意味になっていった。
一方の「よそる」は、「よそう(装)」と、「もる(盛)」とが混交したものと考えられている。ことばとしては「よそう」よりも新しいが、ヘボン式ローマ字つづりで有名なアメリカ人宣教師ヘボンが編纂した和英辞典の第3版に当たる『改正増補和英語林集成』(1886年)に、「Yosoru ヨソル」とあることから、明治前期には使われていたことがわかる。
「よそる」の例は文学作品などでもけっこう見かけるのだが、国語辞典の扱いはというと必ずしも好意的でないものもある。『日本国語大辞典』や『大辞泉』『広辞苑』『大辞林』などではさすがに見出し語を立てているが、小型の国語辞典になると私が調べた限りでは『現代国語例解辞典』『三省堂国語辞典』『岩波国語辞典』くらいしか「よそる」を見出し語に立ててはいない。「よそる」を載せていない辞典は、俗語的だと考えているのであろうか。またNHKの『日本語発音アクセント新辞典』にも「よそる」はない。
東京女子大学の篠崎晃一教授によれば「よそる」は関東を中心に優勢だという(『出身地(イナカ)がわかる方言』篠崎晃一+毎日新聞社 幻冬舎文庫)。ただし、東京と千葉は「よそう」が優勢で、関西も「よそう」が強いらしい。ちなみに、他の言い方として冒頭で示した「つぐ」は継ぎ足すという意味から派生したと思われるが、篠崎教授によれば中四国と九州で優勢だという。
★神永曉氏、語彙・辞書研究会「辞書の未来」に登場!
「日本語、どうでしょう?」の著者、神永さんが創立25周年の語彙・辞書研究会の第50回記念シンポジウムにパネリストとして参加されます。現代の日本において国語辞書は使い手の要望に十分応えられているのか? 電子化の時代に対応した辞書のあり方とは一体どういうものなのか? シンポジウム「辞書の未来」ぜひご参加ください。
語彙・辞書研究会第50回記念シンポジウム「辞書の未来」
【第1テーマ】日本語母語話者に必要な国語辞書とは何か
[パネリスト]
小野正弘(明治大学教授)
平木靖成(岩波書店辞典編集部副部長)
【第2テーマ】紙の辞書に未来はあるか
――これからの「辞書」の形態・機能・流通等をめぐって
[パネリスト]
林 史典(聖徳大学教授)
神永 曉(小学館 出版局「辞書・デジタルリファレンス」プロデューサー)
日時 2016年11月12日(土) 13時15分~17時
会場 新宿NSビル 3階 3J会議室
参加費【一般】1,800円【学生・院生】1,200円 (会場費・予稿集代等を含む)
くわしくはこちら→http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/goijisho/50/index.html
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