福岡女学院大学
図書館司書
小野未来子さん
2017年4月にオープンした西南学院大学の新図書館は、周囲の建物と調和のとれた赤レンガを透かし積みにした外観で、重厚でありながら洗練された雰囲気を醸し出しています。
館内施設や内装も外観と同じように、機能とデザイン性の2つを融合し、心地よい空間を演出しているのでは? また、これまでの図書館が持つ役割だけでなく、これからの図書館に求められるサービスのヒントがここにあるのでは?と期待に胸が膨らみます。
「図書館員が気になる図書館」の記念すべき第一回を飾るのは、西南学院大学図書館。西南学院は1916年に米国宣教師C.K.ドージャーによって福岡県福岡市に設立。今年4月にオープンした新しい図書館について、図書館員の山下大輔さんにおうかがいします。
──創立100周年を記念してつくられた新図書館。いつから計画されていたのですか。
新しい図書館について具体的に検討し始めたのは、2013年4月です。教員、職員合同で新図書館建設委員会が組織されたことに始まります。その委員会で話し合われた内容を受けて、12月にコンペ(設計作品の公募)を行ない、設計会社を決定。14年1月から基本設計を開始し、15年5月に着工、16年9月に竣工しました。資料を移設して、本年4月、新図書館が開館いたしました。
──新図書館には4つのコンセプトがあるそうですね。
(1)学修・研究・保存の機能を強化した<情報空間>
(2)能動的学修と創造的対話を促進する<交流空間>
(3)知的刺激と想像力の解放を求めて集う<遊戯空間>
(4)過去を学び、現在を見つめ、未来を描く<歴史空間>
以上の4つがコンセプトです。
(1)の<情報空間>は大学の主要ミッションです。学修・研究、そして保存機能をこれまで以上に強化し、運営していくということ。
(2)の<交流空間>とは学士力養成のために学修支援環境の整備に力を入れ、「アクティブラーニング」をキーワードに、学生の能動的学修と創造的対話を生み出す空間を目指すということ。
(3)については、図書館は知的な刺激や想像力を解放するための<遊戯空間>としての機能も併せ持ち、幅広い学修活動をサポートするということ。遊戯空間としてカフェを併設し、アート作品も多数設置しました。
そして最後の(4)ですが、図書館の最大の特長は、「資料」という長年の歴史の蓄積にあります。つまり、図書館は過去に出会うことができる数少ない場です。いままで受け継がれてきた<歴史空間>という機能を、これからも大事にしていくということです。
西南学院大学といえば赤レンガ。図書館の外観はレンガ・トレサリーと呼ばれる赤レンガの透かし積みと全面ガラスとを組み合わせてつくられた。
──図書館建設にあたってたくさんの館を視察されたそうですね。
国内外の多くの図書館を視察見学させていただきました。
個人的に特に印象に残っているのは、近年整備された図書館であり、その先進的な取り組みが注目されていた、明治大学和泉図書館と千葉大学アカデミックリンクセンターです。明治大学和泉図書館からは「入館したくなる」「滞在したくなる」「学習意欲を駆り立てる」運営について、そして千葉大学アカデミックリンクセンターからはアクティブラーニングの環境整備について、大いに参考にさせていただきました。
──図書館員として図書館をつくられる過程で苦労されたところはありますか?
学内の会議体で審議が進み、合意形成を行なっていくなかで、さまざまな立場の方の意見に触れる機会がありました。とても貴重な機会だったと感じています。図書館関係者の意見や図書館業界の意見と、そうではない部門の意見を、正しく評価し、議論し、結論を得る作業が思っていた以上に困難で、苦労しました。見出した妥協点が議論のポイントとズレていたり、評価指数が正しくなかったりという場面に何度も遭遇しました。
背景も思いも異なる職員が複雑に絡み合った体制でのプロジェクトのなかで、一図書館職員として、可能な限りの知見と意見を出していくことを意識していました。
──新図書館は「西南の知の樹」をイメージし、樹木のような構成を目指してつくられたそうですね。デザインと機能性が融合された、図書館のシンボル、ブックツリーについてお聞かせください。
新図書館の中央吹き抜け部分は「ブックツリー」、大きな木の幹をイメージしてつくられました。このブックツリーの周りには書架を配置。外側のピックアップコーナーには各分野における注目資料や特色のある資料を配置し、内側には洋書の新刊を置いています。資料が実際に目に触れられるようになり、学生たちの学修意欲は格段に増しているようです。
「ブックツリー」を取り囲むのは学生たちが自由に活動できる空間で、「ラーニングリーフ」と名付けられています。各階の諸施設や設備からなるこのスペースで、学生たちが枝葉のように活動することを想定しています。彼らがのびのびと成長していくことを期待してつくられました。
質問に答える、西南学院大学図書館員の山下大輔さん。
西南学院の創立100周年を機に、2017年4月にオープン。大学の顔として、心のシンボルのチャペルと双璧をなす知のシンボルとして位置付けられている。地上7階建て。着工が2015年5月、竣工が2016年9月。1~3Fのアクティブゾーン。プレゼンテーションエリアほか、ラーニングサポートを設置。4~7Fはサイレントゾーン。図書のほかバラエティ豊かな閲覧席を配置。
西南学院は1916年、米国人宣教師C.K.ドージャーによって福岡市に創立。男子私立中学校として、104名の生徒によってスタート。1921年に高等学部を設立、その後、第二次世界大戦を経て、1947年新制中学校、1948年に高等学校、1949年に大学を開設。建学の精神である“Seinan, Be True to Christ”(西南よ、キリストに忠実なれ)は、学院創設者の遺訓であり、今もなお、学院の中に大切に引き継がれている。
住所 | 〒814-8511 福岡県福岡市早良区西新6-2-92 |
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TEL | 図書情報課 092-823-3426 |
URL | https://opac.seinan-gu.ac.jp/library/ |
lib-jm@seinan-gu.ac.jp | |
開館時間 | 平日8:30~22:00、土曜日9:00~20:00、日曜日13:00~20:00(詳細は図書館HP参照) |
利用できるひと | 学生、教職員、卒業生、退職教職員(一般の利用は不可) |
図書収容能力 | 183万冊 |
閲覧席数 | 1,179席 |
延床面積 | 11,715.21㎡ |
開館年月 | 2017年4月 |
西南学院の知・歴史・ひとをつなぐ幹をイメージした、ブックツリー。
1階ブラウジングエリア。ラグジュアリーな空間で雑誌や新聞が読める。
ライブラリーカフェ。学生証を提示すると割引価格で飲食できる。ここは一般の方の利用可。
1階図書館受付。落ち着いた雰囲気。
エントランスホールのステンドグラス「天国の鍵」は19世紀後半イギリスの作品。
1階天井の、彫刻家・袴田京太朗さんによる本の精霊をイメージした作品。
2~6階の、出版年の古い資料を中心とした電動集密書架。利用者が直接手に取れる。
6階貴重書庫。明治期以前の和書、1850年以前の洋書を中心に収蔵。
7階の約80万冊を収蔵可能な自動書庫。OPACで
出庫要請すれば出納ステーションに自動搬出。
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)