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今号の気になる図書館員さん

神奈川県立川崎図書館
司書
菅井紀子さん

私は、自然科学・工学・産業技術の資料を多数所蔵する図書館の司書です。

JAMSTEC(ジャムステック)は以前から講演会等でお世話になっている研究機関ですが、当館刊行物の取材で図書館にうかがい、海洋、地球科学関連の一般書、雑誌、科学絵本などのコレクションを拝見して、自機関の研究成果を社会に還元する役割も担っていることがわかりました。誰でも利用できる気軽さに加え、公開セミナー関連資料展示などの取り組みも印象に残りました。

職員の研究・業務支援と一般向け業務、特性の異なる利用者サービスにはさまざまな工夫をされているのではないかと思います。多様な機能を果たすためのノウハウの一端などをご披露いただけるとうれしいです。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)横浜研究所 図書館(2)神奈川県横浜市

職員向けと一般向けの2つの顔を持つ専門図書館、JAMSTEC横浜研究所 図書館。研究者用の専門書から絵本を含む一般書まで、幅広いコレクションはいったいどうやって収集されるのか? また図書館が今後目指す姿とは? 前回同様、図書館司書の長尾典子さんにお話をうかがいました。


一般開放図書館の入口横。小学生から中学生向けにつくられた「海と地球のかべ新聞」が掲示されている。

一般書も研究に役立っている!?

──さて、選書についてお聞きします。職員向けと一般向け……たいへん苦労されていると思いますが。

図書館のメインの業務がJAMSTEC職員の研究開発支援なので、図書館予算の8割以上を占める職員用の電子コンテンツ、特に海外学術雑誌の電子ジャーナル(注1)選定が、重要な業務です。学術雑誌は研究開発活動の生命線ですので、限られた予算の中で必要な資料をいかに効率的に購入するかに留意しています。大まかには、利用者に対してアンケートを行ない、その結果を参考に、図書委員会で最終的に購読誌を決定するというやり方です。

図書委員会はJAMSTECの各分野の研究者・技術者が委員であり、いわばユーザー代表。図書館は事務局として、委員会で多角的な検討を行なってもらうために、アンケート結果以外にも利用実績などのデータや情報を提示しています。人数が少ない部署からの要望も埋もれてしまわないよう、JAMSTECの研究開発に必要な資料について図書委員会で意見を交わし、決定してもらいます。

── 一方、冊子体の図書のほうはいかがですか?

冊子体図書の予算がもともと少ないことと、1タイトルずつ利用者投票式のアンケートで選ぶ方法は現実的ではないため、不定期で実施する図書の購入リクエストや、JAMSTEC職員の著作、既存の所蔵資料の利用実績、研究分野の最新刊など、できるだけいろんなファクターを用いて、基本的には図書館員が選定しています。

JAMSTECでは全部署で購入される図書すべてを図書館が管理すると規程で定めています。予算の出どころにかかわらず、図書館で購入する図書以外もすべてです。
図書を購入する場合、購入依頼を作成するのですが、この書類はまず図書館に回されます。図書館は、JAMSTEC内に重複所蔵があるかどうか確認し、すでに所蔵されていれば、購入部署にその情報を伝えています。JAMSTEC内で図書を重複購入することなく、予算を有効活用できるしくみです。購入した図書は図書館に納品され、受入処理やデータ登録・装備をしたのち、「長期貸出」という形で購入部署に送ります。購入部署で利用が終われば「返却」され、図書館に移管されます。職員専用図書館に所蔵されている専門書は、図書館予算で購入した図書に加え、このような経緯で各部署から移管されたものが相当数あります。
ある部署が所蔵している図書を利用したい場合は、図書館に申し出てもらいます。図書館から購入部署に照会し、支障がなければ一時利用できるよう調整します。このサービスを行なうことによって、JAMSTEC全体で資料を有効に活用することができます。

図書館員は図書館の所蔵資料だけではなくJAMSTEC全体の図書購入依頼から移管まで、一連の流れに関わることになります。そのため、今どのような図書が業務や研究開発で必要とされているのか、自然に知ることになり、図書を選ぶ際にも、どこにアンテナを張ればいいのかわかるようになってくるんです。

──図書館を通すことで職員の手元に図書が届くのが遅くなりませんか?

研究者には、資料が一刻も早く手元に必要になることも多いですからね。そのため、図書館に届いた資料は、納品された当日中に購入部署に届けられるよう、大至急データ登録や装備をすることを徹底しています。

──むつ研究所など遠隔の研究所に関してはどうされているのですか?

購入した資料を横浜図書館に納品していると、必要な方の手元に届くまでに時間がかかってしまいますので、利便性を優先し、納品後に購入部署からデータを送ってもらい、後付けで登録するようにしています。

── 一般用の図書に関してはいかがですか?

もともと一般向け図書の予算が非常に少ないのですが、公開セミナー(http://www.jamstec.go.jp/j/pr/esm_sat_open/)の関連図書を中心に、図書館員が選定しています。

── 一般開放図書館には職員の著作物のコーナーがありますね。

JAMSTEC関連資料コーナーと称しています。JAMSTECの“歴史と現在”を一般の方に伝えられる貴重な場ですので、職員の著作をすべて網羅し、提供したいと思っているのですが、JAMSTECに所属する全職員の著書の刊行情報をもれなく調査するのはとても大変で。ただ、自著寄贈を受けた図書を所内のメールニュースで紹介するようにしたところ、著者本人が積極的に寄贈してくださることも増えました。共著書や事典など、分担執筆の著作物は調べ切れないこともあるのですが、できるだけ調査し、可能な限り揃えるようにしています。


インタビューに答えていただいた図書館司書、長尾典子さん。職員の著作物などを紹介する一般向け図書館内のJAMSTEC関連資料コーナー前で。専門書から写真集や小説まで幅広い分野に及ぶ。

また、JAMSTECの図書館として、各部署が刊行する出版物も、もれなく収集・保存し、提供したいと思っています。これも、各部署が、いつ、どんな資料を刊行しているかという情報を得るのに苦慮していました。そこで、国立国会図書館の納本制度を利用することにしました。
国内で刊行された刊行物は、すべて国立国会図書館に納本する義務があります。国立研究開発法人であるJAMSTECも、当然ながら、作成した刊行物をきちんと納本する必要があります。でも、作成した各部署それぞれが、個別に手続きするのは手間がかかって大変ですよね。それで、各部署に、「国会図書館への納本を図書館が代行するので、納本分とあわせてJAMSTEC図書館用にも出版物をください」と、とりまとめを申し出たんです。このコバンザメ作戦(笑)で、JAMSTEC内の刊行物を網羅しやすくなりました。

各部署がそれぞれの出版物を永続的に保存・管理するのは、組織の改編などもあるので難しいと思います。しかしながら、これらの資料は、JAMSTECが海洋・地球・生命の統合的理解を目指して今までどのような研究や技術開発を行なってきたのか、その歴史を伝える貴重な財産です。散逸してしまうことがないよう、国会図書館にもれなく納本し、かつJAMSTECの図書館にもきちんと所蔵して後世に伝えていく──これは、図書館だからこそ果たせる、図書館が果たすべき役割であると思っています。

──職員支援と一般向け……バランスを取るのは難しくありませんか?

サービス対象も内容も異なりますので、どうしても温度差が出てきます。しかし研究者には一般書が不用かというと、そうでもなさそうで、結構利用されているんです。

理由を聞いたことがあるのですが、ご自身の専門とは異なる分野とも、地球科学という広い学問領域の中でのつながりを意識して研究を進めることがあるそうです。そういった、専門分野外の知識を得るには、専門書だとちょっと難しすぎることもあるそうで、まずは一般書を読みたい、と。一般書に研究者の需要もあることに気づかされました。一般開放図書館の蔵書の充実が、職員の研究開発活動にも役立っていたんですね。

中で完結するのではなく、外へ

──今後、図書館をこうしたい、という思いはありますか?

図書委員会において、今後のJAMSTEC図書館のあるべき姿として、「海と地球の学術情報拠点を目指す」という目標が策定されました。この目標を受け、図書館としての次のステージは、「基礎的な図書館機能を充実させ、発信力を高める」ということでしょうか。
図書館というインフラを、JAMSTEC職員の業務に存分に活用してもらう。それだけではなく、一般開放図書館や機関リポジトリを窓口として、JAMSTECがどんな研究をし、どんな成果をあげているのか知っていただく。中だけで完結するのではなくて、外にも提供できるような環境をつくることが、今後の図書館の重要な役割だと思っています。

──昨年の3月末にOPACも公開されましたしね。

それまであまりなかった公共図書館からの利用問い合わせや、一般の方からの専門的な問い合わせなどが少し増えてきた感触があります。一般開放図書館のある横浜研究所は最寄り駅からも少し離れていますし、横浜市とはいえ端のほうですから、必要な資料を所蔵しているかどうか不明な状態のままでとりあえず来館するのは難しい。「所蔵資料をインターネットで検索できないか」という問い合わせはたびたび受けていましたので、ニーズにこたえられるようになって、本当によかったと思っています。

── 一般開放図書館の今後については?

ご覧の通り、小さなスペースですが、来館者が増えたとしても利用者お一人お一人へのサービスの質の低下を招くことがないよう、丁寧な対応を心掛けていきたいと思っています。
ただ、研究機関の図書館として、まずはJAMSTEC職員に対する図書館サービス提供が第一。そこができていなければ、一般向けのサービスも痩せてしまうと思っています。持っている資料をきちんと提供し、そこからさらに何ができるのかを考え工夫した結果、今の図書館があります。今後も、内と外のバランスを取りながら、少しずつ積み重ねていきたいと思っています。

──昨今は深海生物が大人気ですし、図書館の入館者数は今後も増えるのではないでしょうか。

深海ブームとちまたでは言われていて、昨夏にJAMSTECが国立科学博物館などと共催した特別展「深海2017~最深研究でせまる”生命”と”地球”~」は大人気(注2)だったと聞いています。この特別展の図録はJAMSTECの図書館にも所蔵していますが、最新の知識がわかりやすくまとめられていて、一般開放図書館の利用者にもご好評いただいています。今後も、深海を含め、海洋科学や地球科学に興味を持つ方が増えて、JAMSTECの一般開放図書館を活用していただきたいという思いがあります。

横浜研究所第三土曜日の休日開館では、クイズラリーで正解したら、オリジナルの深海生物の消しゴムはんこを月替わりで押しています。これは、図書館員手作りなんです。私は不器用なんで1つ作ったきりですが、器用な図書館員が毎年のように新作を作り、種類も増えています。年に1回開催される横浜研究所の施設一般公開では、図書館内にこの深海生物はんこを全部出して自由に押してもらうイベントを実施しています。ありがたいことにとても好評です。

そのイベントの際には、色々な深海生物のはんこを押して楽しんでいただくだけではなく、生息域や特徴などを掲載した豆本を作成して配布しました。そうすることで、深海生物の奇妙な形をただ面白いと思うだけではなく、それをきっかけに、彼ら(彼女ら)の、より深い生態への興味につながればと思っています。JAMSTECの図書館だからこそできる科学コミュニケーション、これからも充実させていきたいですね。


(注1)従来は印刷物として出版されていた雑誌、とりわけ学術雑誌と同等の内容を、電子メディアを用いて出版したもの。電子雑誌ともいう。ウェブの利用が主流となっており、ほかに光ディスク、メーリングリストなどが用いられている。紙媒体の雑誌と並行して出版されるもの、電子版のみのものがある。印刷、流通コストがかからないので、オープンアクセス雑誌のように無料で公開されるものもある。(「図書館情報学用語辞典 第4版」より)

(注2)2017年7月から開催された。国立科学博物館、JAMSTEC、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社の共催。「生物発光」「巨大生物」「超深海」の生物や、深海と巨大災害、海底資源などに焦点をあて、深海の世界とその最新研究を紹介。「深海の巨大ザメ“オンデンザメ”」や、「伝説の怪物“ダイオウイカ”」など深海生物の標本展示が話題を集めた。また東日本大震災の実態にせまる「深海と巨大災害」などを映像とCGを駆使して紹介。地球深部探査船「ちきゅう」の1/100模型も展示された。約2か月半の期間で入場者数約60万人。

(おわり)


横浜研究所第三土曜日の休日開館で登場する、図書館員お手製の深海生物の消しゴムはんこ。表情豊かな深海生物がいっぱい。子どもたちが夢中になるのもわかる。

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)

海洋に関する基盤的研究開発等を行なう文部科学省所管の国立研究開発法人。英語名はJapan Agency for Marine-Earth Science and Technology、略称はJAMSTEC(ジャムステック)。1971年10月に認可法人海洋科学技術センターとして発足。2004年4月に独立行政法人化され海洋研究開発機構と改称。2015年4月、国立研究開発法人に移行。本部は神奈川県横須賀市。ほかに、横浜研究所(横浜市)、むつ研究所(青森県むつ市)、高知コア研究所(高知県南国市)の3研究所と、国際海洋環境情報センター(沖縄県名護市)と東京事務所(東京都千代田区)がある。

海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究における協力等の業務を総合的に行なうことで、海洋科学技術の水準の向上と学術研究の発展に資することが目的。研究部門、開発・運用部門、経営管理部門で組織され、研究部門は、地球環境観測研究開発センター、海洋掘削科学研究開発センター、地震津波海域観測研究開発センターなどを置く「戦略研究開発領域」と、大気海洋相互作用研究分野、 統合的気候変動予測研究分野などの研究を行なう「基幹研究領域」に分かれている。開発・運用部門には、海洋工学センター、地球情報基盤センター、地球深部探査センターなどを設置。また地球深部探査船「ちきゅう」、有人潜水調査船「しんかい6500」などの多くの研究船・探査機を運用。

2011年の東日本大震災の際、深海調査研究船「かいれい」が地震発生3日後に三陸沖の海底を緊急調査。広範囲にわたり大規模な海底変動が発生していたことを明らかにし、来るべき南海トラフ巨大地震に向け、「地震・津波観測監視システム(DONET)」を構築するなど、防災研究にも貢献している。


JAMSTEC 横浜研究所

地球環境変動の解明と予測、地球内部のダイナミクス研究、巨大地震・津波の発生メカニズムの解明を行なう拠点。スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を駆使した研究活動や地球深部探査船「ちきゅう」の運用を担う地球深部探査センターなどが業務を進めている。

住所 〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173-25
TEL 045-778-5476
URL http://www.jamstec.go.jp/j/pr/library/
OPAC http://www.jamstec.go.jp/opac/
機関リポジトリ http://www.jamstec.go.jp/jir/
E-mail library@jamstec.go.jp
開館時間 月~金10:00~17:00、
地球情報館を開館する第三土曜日10:00~16:00
利用できるひと 誰でも利用可、貸出は図書資料一人3冊まで、1か月間
蔵書数 約6000冊(横浜研究所一般開放図書館の図書所蔵数)
総座席数 約30席
面積 162㎡
開館年月 2002年


3階の職員専用図書館の書架。地球科学、特に海洋学、気象学、地震学、地質学などの専門書が並んでいる。


雑誌バックナンバーを収容する閉架書庫。


職員専用図書館。研究書や関連企業などの機関誌類がズラリ。


職員専用図書館カウンター。後方には図書館職員のデスクが配置されている。


職員専用図書館内の「古本シェア本棚」。職員が私物の図書を持ち込んだり、持ち帰ったりできる。


職員専用図書館内のJAMSTEC関連資料コーナー。旧海洋科学技術センター時代に刊行された古い資料も所蔵している。


ジャムステック・キャラクターズのうちの一匹、チョウチンアンコウの「アンジー」。獲物を丸呑みする大食いという生態の特徴を生かし、注意喚起の看板に利用している。


地球深部探査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」などオリジナルのペーパークラフト。図書館では希望者に配布しており、大人気。


児童書コーナーにある「水圧ってなんだろう」。上にある通常のカップ麺のカップが、下のように縮む。


一般開放図書館の一角。利用者から贈られた絵葉書や深海生物のフィギュアなどの展示物がいっぱい。

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