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今号の気になる図書館員さん

海洋研究開発機構
図書館司書
長尾典子さん

私は、海洋・地球科学の研究開発を行う機関で「地球科学」の観点から地震・津波関連資料を多数所蔵している図書館の司書です。

以前類縁の資料をご所蔵と思い見学させていただきましたが、防災専門図書館については、「災害」という「人」と「人が巻き込まれる現象」の関わりに特化したコレクションで、私の勤務図書館と書架の雰囲気が全然違うことに驚きました。独自分類の維持管理や特別展の実施には専門的な知識と経験が不可欠ですが、地味で時間がかかる業務でご苦労も多いのではないでしょうか。専門図書館共通の悩みどころ、内外へのアピールのコツなど教えていただけると嬉しいです!

防災専門図書館(2)東京都千代田区

防災専門図書館は昭和31(1956)年に開設された半世紀以上の歴史を持ち、防災・災害に関する唯一の専門図書館。官庁街の永田町の22階のビルの中にある図書館です。今回も司書の堀田弥生さんに話題になっている企画展や広報活動についてうかがいました。

企画展で開かれた図書館をアピール

──平成26(2014)年から始められた企画展が話題です。

母体機関の全国市有物件災害共済会が平成24(2012)年に社団法人から公益社団法人になりました。「公益になったからには利用者を増やそうよ」、と当時の課長がおっしゃって、平成26年を広報元年と位置付けました。

20年近く前の話ですが、私はこの図書館の利用者でした。当時入口のドアは常時閉まっていて、入るのに勇気がいるような、知る人ぞ知る図書館でした。利用者も一日一人いるかいないかだったと聞いています。

広報元年と位置付けてから、入口のドアを常時開放し、看板を出したり、ポスターを貼ったりしました。おかげで来館者は増えてきましたが、閉架式の図書館なので、閲覧室にある本や雑誌以外は手に取って見られないんです。初めて来られる方に閉架式は敷居が高いですし、何よりも先輩方がコツコツと集められたお宝(蔵書)をこのまま眠らせておくのはもったいない。そこで、企画展をやってみようということになりました。

──具体的にどんな企画展を開催されたのか、お聞かせください。

最初の企画展は、平成26年6月の「新潟地震 発災から50年」です。以後、年に1、2回の大型の企画展と、広島土砂災害、御嶽山の噴火といった突発的な災害などに対応した小さな企画展(ミニ展)を開催しています。大型の企画展は、阪神・淡路大震災から20年目の平成27年、東日本大震災から5年目の平成28年にそれぞれ開催しました。平成28年4月に起こった熊本地震に関しては、28年8月、29年4月の2回、大型企画展を実施しています。

──熊本地震については2回、企画展を開催されたのですね。

平成28年8月に熊本地震の写真展&企画展を開催したのは、南阿蘇村在住の写真家、長野良市さんの写真集『ゼロの阿蘇』を購入したことがきっかけ。「ぜひ熊本から離れた東京で写真展を開催できないか」と長野さんから打診を受けて実現しました。当館の企画展とのコラボレーションで相乗効果を狙いました。

そして今年春の企画展は「熊本地震の現在(いま)」。現地の方から話を聞くと、「復興」という言葉は軽々しく使えないと思い、現状をありのままに伝えようと。阿蘇大橋や熊本城の復旧状況を中心に展示をしました。

──図書館で写真展と聞くと、開催準備が大変そうに思えますが?

図書展示はしてきましたが、写真展は初めてなので、まず展示するための壁をつくるところから始めました。プラスチック段ボールに黒い布を貼って……司書二人とも司書資格よりも学芸員資格を先に取っているからでしょうか、こういう作業は苦になりませんでした。

以前働いていた防災科研(防災科学技術研究所)では、鹿児島市が住民に配布している火山灰専用のビニールのごみ袋をもらってきて、OPACに登録しちゃいましたね(笑)。とまでは言わなくても、資料に対する専門性を追求し、わかりやすく表現しようとする姿勢は学芸員的な感覚が役に立っているのかもしれません。

──被災地にも行かれるんですね。現地の図書館の様子はいかがでしたか?

被災地の図書館が災害の資料を集め、アーカイブを創るということが普及しつつあります。ですが、災害資料収集は、図書館の一般的業務にはなじみがないもので、みなさん苦労していらっしゃるようです。例えばNDC分類だけでは分けきれなかった場合、先例の独自分類を取り入れたり、災害資料に区分した資料をさらにNDCで再分類したり。様々に工夫をされています。


事務室内の図書コーナー。「東日本大震災」「福島第一原子力発電所」をキーワードに集められた約4000冊の資料の中から主要なものをピックアップして並べられている。

──そういう工夫を誰かが伝えなければいけない。防災専門図書館の役割は大きいですね。

阪神・淡路大震災といえば神戸大学附属図書館の震災文庫が知られています。中越地震では新潟県の長岡市立中央図書館文書資料室、東日本大震災では東北各地の図書館、といったように、大災害のたび、被災地では図書館にアーカイブを創る動きが起き、必ず先例の災害アーカイブを参考にしています。そして、平成28年熊本地震の後、これから新たに興るであろうアーカイブの手助けを何かできないかと思いました。

そこで、前職防災科研の客員研究員も兼ねているので、防災科研の業務としてこれら被災地図書館間の連携サポートを提案しました。この春から、メーリングリストをつくって情報交換したり、活動内容を図書館総合展で発表させてもらったりして、緩やかな連携ができつつあります。

災害の教訓を多くの人に届けたい

──専門図書館の悩みどころ、広報はどのようにされていますか。

社内へは、大きな災害が発生するとインターネット情報から入手した速報や、所蔵する関連資料情報をイントラネットで提供します。平時は新着情報や図書館総合展などのイベント参加報告など、とにかく図書館は何かをやっているということをひたすらアピールしています。

対外的には、例えば企画展なら、プレスリリースやイベントバンクへの登録など多くの人が目にする機会を狙って広報しています。また講演依頼、執筆依頼があれば積極的に受けています。この夏休みは、千代田図書館で子どもたち相手に「図書館で防災訓練!?」と題した課外授業をしてきました。

──レファレンスで印象に残った質問は何ですか?

「自分の家は安全ですか」という質問は割とよく受けます。どのような意図で尋ねられたのか会話の中から見極め、何となく聞いてみたという人にはまず、揺れやすさマップとか昔の地盤の情報などわかりやすいことから話します。ハザードマップは情報量が多くて説明するのが意外と難しいんです。もっと詳しく知りたいと興に乗ってきた方とはさらにディープな話をしますね。

──平成23年の東日本、28年の熊本など、最近地震は頻繁に起きています。

1950~60年代は日本では大きな地震が明らかに少ない時代でした。その頃から高度成長期に突入し、高速道路などが造られました。しかし平成7年の阪神・淡路大震災、16年の新潟県中越地震、23年の東日本大震災、28年には熊本地震と、私たちはこの20年で震度7の地震を何度も経験しました。今は、いつどこで巨大地震があってもおかしくない、そんな時代です。

災害の教訓も時代とともに移り変わっています。例えば、地震が来たらまず火を止めよ、と私たちの世代は習いました。しかし昨今の防災教育では、ガスは震度5程度の揺れで自動的に遮断されるので、まずは自分の身を守ろうと教わります。つまり、防災も進化しているんです。親子で常識が違うこともあり得ます。新しい知識をぜひ習得してください。それによって、生き延びる確率が上がるかもしれません。

──最後に、災害・防災資料に対する防災専門図書館の想いを教えてください。

災害資料の中には、記録を残してくれた方の想いが宿っています。さらには、記録も残せずに亡くなられた方のことを思えばなおさら、それらを次世代に残していかなくてはならない。それがもっとも適しているのは、誰もが利用できる図書館です。防災専門図書館には過去の災害の教訓と、未来の災害を減らすための防災の知恵という宝の山が眠っています。私たちはそれを多くの方に、これからも伝えていきたいんです。

(おわり)


図書館入口横には今年春の企画展「熊本地震の現在(いま)」の熊本地震直後の阿蘇大橋の写真。関心の高いものは企画展が終了しても継続して展示されている。

防災専門図書館

1956(昭和31)年7月に開設した専門図書館。公益社団法人全国市有物件災害共済会により運営されている。開設の目的は「防災、災害等に関する資料の収集とその活用・発信を通じて、住民のセーフティネットとして貢献する」ためとしている。地震や火災、事故や公害など様々な災害やその対策に関する約16万冊の資料を所蔵している。閉架式の図書館。

図書館見学会を開催!
防災専門図書館が下記の日程で見学会を開催(各回、先着20名)。

11/27(月)9:30~12:00
※当日参加も受け付けます!直接ご来館ください。

12/8(金)14:00~16:30
メールで lib.bousai@city-net.or.jp にお申込みください。
・件名「見学会申込み」にしてください。
・人数・参加者名・ご所属をお知らせください。
※予定人数を超えた場合は、防災専門図書館ホームページでお知らせします。

住所 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-4-1
日本都市センター会館8階
TEL 03-5216-8716
URL http://www.city-net.or.jp/library/
E-mail lib.bousai@city-net.or.jp
開館時間 9:00 ~17:00(休館日は土曜日、日曜日、国民の休日、年末・年始、館内整理日)
利用できるひと 誰でも利用可。ただし資料の貸出は不可。コピー可。
蔵書数 約16万冊
閲覧席数 12席
面積 閲覧室、事務室、書庫(8、9、B1階)含め、492.61㎡
開館年月 1956年7月


昨年の「『ゼロの阿蘇』写真展」で展示された、長野良市氏による南阿蘇村の被害の写真。


「熊本地震の現在」より地震関連資料コーナー。火災・消防、BCPなどジャンル別に紹介。


熊本地震の住宅の被害概要。地図には全壊、半壊、未調査など被害状況がマークされている。


熊本城の石垣の復旧工事の様子を写真で詳しく解説。復旧には20年かかるという。


平成28年熊本地震直後と29年の同時期の熊本日日新聞。復興の進み具合がわかる。


平成28年の企画展「東日本大震災から5年」の展示物。地図には震災関連資料を発行した自治体の名前が記されている。


首都直下地震で想定される被害状況など、図や表を使ってわかりやすく解説。


「逃げるが価値」「論より行動」──ことわざをもじって作られた図書館オリジナル「防災いろはかるた」。ホームページで公開されている。


入口付近のラック。防災に役立つパンフレット類、「防災いろはかるた」の文章が入ったしおりなどが入っている。


図書館開設時の看板。閲覧室に飾られている。


閲覧室で寝ているのは防災専門図書館のキャラクター、ナマズくん。

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