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今号の気になる図書館員さん

熊本学園大学
司書課程担当
山田美幸さん

地方大学で、図書館司書の養成に関わっています。

最近気になっている図書館は2017年4月にオープンした近畿大学「アカデミックシアター」です。

図書館全体の監修を松岡正剛氏が手がけたと聞き、気になっています。セイゴウ先生が「今までにない大学の図書館スペースをつくりたい」と意気込んでつくられた空間、そして独自分類「近大INDEX」はどのようにして設定されたのでしょうか。

また、マンガを興味関心の起点に据えた「ドンデン読み」。マンガだけに興味関心を留めさせない工夫を図書館はどのように取り組んでいらっしゃるのか。

これまでの大学図書館像をドンデン返ししそうな、この図書館をぜひ紹介してください。

近畿大学 アカデミックシアター(2)大阪府東大阪市

近畿大学東大阪キャンパスの新たなシンボル、アカデミックシアター。前回に引き続き、1~4号館の真ん中に広がる、5号館のビブリオシアターについてうかがいます。注目のマンガを取り入れた「ドンデン読み」とは? 学生ボランティアの活動とは? アカデミックシアター事務室室長の岡友美子さんと中央図書館の玉川恵理さんにお話を聞く2回目。

マンガから広がる知の世界

──1~4号館の真ん中に広がる5号館ビブリオシアター。2階にあるマンガ中心の「DONDEN(ドンデン)」にも注目が集まっています。

岡:約2万2000冊のマンガとともに約1万8000冊の新書、文庫が11エリア、32のテーマのもとに配置されています。特長的なのは“知的好奇心を刺激するきっかけ”としてマンガを位置付けているところです。マンガを起点にして「DONDEN読み」を提案。具体的にはマンガの周りに関連する新書や文庫本を配置しています。

以前から中央図書館では文庫や新書をたくさん集めていました。新書は社会問題にわりと直結している内容のものが多数出版されていますし、文庫本は手軽に小説を読めるので、それらをビブリオシアターに積極的に置きたいという話をしていたんです。松岡さんのほうからマンガをぜひ活用したいというご提案があり、マンガと新書や文庫とを掛け合わせるともっといいよねという話になったので、それでこのように一緒に見せることになりました。

玉川:たとえば「犯人はこの中にいる」というテーマの棚には『金田一少年の事件簿』『Sエス-最後の警官-』などのマンガが置いてあって、その周りに各国のミステリー小説や捕物小説などの文庫本や、犯罪心理学や科学捜査などの新書を置いています。そこから心理学や科学など中央図書館にある専門書へと読書欲が展開し、「知のどんでん返し」が起こればいいな、と期待しています。

岡:テーマのつくり方が面白いんですよね。『あさきゆめみし』などがある「文学をマンガする」を皮切りに、2号館のキャリアセンター近くの棚には『課長島耕作』や『ブラックジャックによろしく』などが並んでいる「近大生のためのハローワーク」、『闇金ウシジマくん』や『クロサギ』などがある棚には「お金がものをいいます」など魅力的なテーマを配しています。

──いままで、中央図書館ではマンガは所蔵されていませんでしたよね。収集作業はいかがでしたか?

玉川:マンガをイチから集めていったので、それはもうたいへんでした。このエリアにはこの漫画を置きたいと、編集工学研究所さんからご提案はあるものの、いざ収集していくと、流通していないものもかなり多く、古書でしか入手できないものもたくさんありました。大学図書館として購入するので、古物営業許可を取得していない個人の中古出品などは購入できません。シリーズの何巻だけ手に入らないというのもあって、これは揃わないのでこれでどうですかとか、そんなやりとりを編集工学研究所さんと何度もしましたね。

オープンまでに時間が限られていましたので、入手できなかったものもかなりありました。そういったものは今後もなんとか入手できないか、定期的に調べていきたいと思っています。また新刊マンガについては周辺の書店への影響を考えて、ある程度遅らせて配架するようにしています。

──「DONDEN読み」について、学生のみなさんには受け入れられていますか?

岡:マンガが映画やテレビドラマになるケースが多いですよね。先日、他大学の図書館員の方と話したんですが、マンガを読んで、そこで興味を持ってもうちょっと突っ込んだ本に流れることが多いという話をしてくれたんです。私もドラマになった原書は読んだりするほうなので、こういったつながりをぜひ活かしたいと思っています。

玉川:マンガのタイトルを見てもわからないけれども、その近くにマンガの内容につながる新書や文庫があるので、それを見て逆にマンガに手を伸ばす人もいるようです。

この試みが成功したのかどうか、現時点ではわかりませんが、少なくとも学びの新たな形は提示できたのではないかと思っています。

──NOAH33、DONDENが加わり、図書の貸出については伸びましたか?

玉川:マンガに関しては月にだいたい8000冊程度、多いときには1万冊を超えることもありますね。しかしマンガを差し引いても、一般書も昨年に比べて1.2倍に上昇しました。しかしマンガといえども重いので、借りずにここで読んでいる学生もかなり多いと思います。


UHA味覚糖との産学連携、ACTの「KISS LABO(キスラボ)」。近大マンゴーを使った「ぷっちょ 近大マンゴー」や近大マグロのコラーゲンでつくられる化粧品「リップスクラブ」などが商品化されている。

──そしてビブリオシアターのもう一つの施設といえば42室のガラス張りの小部屋、ACT(アクト)。いろいろ興味深いものが行なわれているようですね。

岡:ACTは社会の諸問題を解決に導くために、学生や企業、地域が連携してさまざまなプロジェクトを行なうために設けられた空間です。たとえばUHA味覚糖さんと近大の薬学部の産学連携プロジェクト「KISS LABO」では文芸学部文化デザイン科の学生がポスターを、経営学部の学生がマーケティングを手掛けたりしています。また全国的に有名になっている水産研究所の近大マグロ。世界の水棲生物の行動解明・研究に貢献することを目指す「宇宙衛星・近大マグロ」というプロジェクトを立ち上げています。現在ACTでは30のプロジェクトが動いています。

基本的に部屋の使用期間は1年。先生方からこんなプロジェクトで使いたいと申請を受け、こちらで審査し、選ばれたものです。ゼミの延長で使いたいなど授業がメインというのは、ご遠慮願いました。

これからもACTでの活動を可視化することで見る側・見られる側が互いに刺激を受け合える、多様な学部の学生たちが交錯する、そんな「実学教育」が実現する学習空間を目指していきます。

学生と本とのつながりをもっと深めたい

──さて、アカデミックシアターのスタッフについてお尋ねします。玉川さんをはじめとする中央図書館のスタッフも絡んでいると思いますが、どういう役割分担になっているのでしょうか?

岡:1~5号館の建物全体は私たちアカデミックシアター事務室が管理をしています。ビブリオシアターに関しては図書の部分は中央図書館で、ACTに関してはアカデミックシアター事務室で管理しています。

──ところでアカデミックシアターの職員の人数は?

岡:私を入れて5名。みんな、フル活動しております!

──中央図書館のスタッフは具体的にどんなことをされているのですか?

玉川:ビブリオシアターの本を管理しています。このゾーンはこのメンバーが見るというように担当がそれぞれ決まっています。私はNOAH33では、生命科学や医療、アスリートの棚などを担当しています。だいたい2~3人で、4つくらいの棚を管理していますね。

──そしてアカデミックシアターには学生の図書館ボランティア、アプリコットコンシェルジュが活動しています。彼らはどうやって選ばれたんですか?

玉川:アカデミックシアターがオープンするときに募集しました。基本的に来る者は拒まずの精神で、応募してくれた人は全員、メンバーになれました。この秋にも1年生を中心に再度募集をかけました。いまは1年生が7人、2年生が21人、3年生が10人、4年生が3人の計41人で活動してもらっています。現在2年生が主力で動いてくれていますが、彼らは授業をたくさんとっているので、あまり時間がありません。なのでイベントをするとき全員集合というのはなかなか難しいですね。空きコマを利用して黒板アートを描いてくれたりしています。

──やはり女性が多いですか?

玉川:3分の2くらいが女性ですが、積極的に活動してくれている男性の学生もいます。また学部としては文芸学部の子が圧倒的に多いですね。やっぱり黒板アートを担当したいという子はデザインが得意な子なので、文芸学部の割合が高くなってきます。

──企画展示「学生とともにつくる棚」では、アプリコットコンシェルジュのみなさんが棚をつくってらっしゃいますね。

岡:NOAH33、DONDENそれぞれに「学生とともにつくる棚」が1つずつにありまして、そこでつくってもらっています。並べ方や選書は学生たちにお任せ。学生たちは表紙で選んだり、そのテーマで選んだり思い思いの選書を楽しんでいます。夏に「美しいってなんだろう」というテーマで棚をつくってもらったときは、「美しい歌声」という発想で、棚の前でライブをしたんです。図書館職員にはできない面白い発想ですよね。

玉川:編集工学研究所さんに定期的にワークショップをしていただいて、棚のつくり方を教えていただいています。ゆくゆくはほかの棚づくりも学生に任せていきたいな、と思ってはいます。

──イベントもやられたそうですね。

岡:「夜の図書館」「マンガイケメン総選挙」「冬のしおりをつくろう」といったイベントを手掛けてくれました。

玉川:「夜の図書館」は参加者が夜通し本を読んで「DONDEN読み」をしようというイベント。募集期間5日で定員10人のところ70人の応募が来ました。まず「こんな本、私読んでるんやけど……」という感じで自己紹介をしてから、最後に自分の読んだ本をプレゼンしてみんなで内容を共有するという。参加してくれた人は完全にみんな初対面だったんですが、帰るときには仲良しになっていましたね。

「マンガイケメン総選挙」も盛り上がりました。一次投票で自分の好きなキャラクターに投票してもらって、そこで得票が多かった10キャラくらいをピックアップしてWebで最終投票をしたんです。最終投票の前には自分の推しキャラをアピールする演説会みたいなのも行ないまして、さながらビブリオバトルのようなハイブリッドなイベントになりましたね。ちなみに1位はweb投票総数1177票中145票を獲得した「ワンピース」のサンジでした。今度は美少女コンテストとか動物キャラコンテストとか考えているようです。

──そして大学院生によるTA(ティーチングアシスタント)もACTで活動されていますね。

岡:TAにはACTの一室を用いた学習サポートデスクで、授業などでわからないことや、レポートや卒論の書き方など、学部生の学びを支援してもらっています。現在男子6名、女子1名の計7名で活動してもらっています。彼らの選考は研究科推薦で、事前に著作権のことやデータベースのこと、話し方など、研修を受けてもらいました。

──TAと比べると、アプリコットコンシェルジュの活動は自主的な姿勢を重んじられていますね。

玉川:アプリコットコンシェルジュは、いわばサークルのような感じです。こういうイベントをやりたいと言われると、問題点だけを指摘したり、企画展示棚に関しては2か月に一回くらいは変えてほしい、というようなことはたまに言ったりしますけど、基本的に彼らがやりたいことをやってもらっています。

──アカデミックシアターの使い方、といったようなガイダンスは開催されたりしていますか?

岡:ガイダンスなどはまだやったことがないんです。しかし、この4月でアカデミックシアターも1周年。学生の利用率は高いとは思いますが、もっともっと利用してもらうためにアカデミックシアターはこういう目的でつくられたとか、こういう使い方をしてほしいとか、どんどんアピールしていかなきゃならないと思っています。

──そのほか、課題はありますか?

岡:ACTの活動やイベントなどを図書につなげたいと思っています。仮想通貨に関するイベントも先日開催したのですが、そんなには集まらないだろうと思っていたら80人以上もの学生が集まったんです。貸出し本を調べたら、仮想通貨、ビットコインに関する本がかなり出ており、興味のある学生が多いことを実感しました。

また投資関連のイベントを開催した時に、講師の方が読んで勉強になった本を紹介されていたんです。じつは、あまりそういった本は図書館になかったりするんです。

玉川:普段の選書では投資関係の本とかあまり買わないのですが、今後イベントや企業とのコラボレーションに役立つのであれば買っていこうかと、図書館でも話しています。クラウドファンディングに関する図書がなかったので、買い足したりもしました。

岡:学生たちはいろんなイベントに興味を持って参加してくれています。そのテーマを深掘りするには結局本を読まなきゃいけない、と思うんです。でも必ずしも学生たち全員がそれができているとは思えない。ただイベントに参加しただけで、学生たちには満足してほしくない。

イベントと図書を強くつなげるためのなにか──そのなにかを見つけることが、アカデミックシアターにとっての課題だと思っています。

(おわり)


アプリコットコンシェルジュの頼れるサブリーダー、文芸学部4年生の池田恵理さん。DONDEN「文化部が教えてくれる」前にて。この春からは英語の先生になるんだそう。

近畿大学

大正14(1925)年設立の大阪専門学校と、昭和18(1943)年設立の大阪理工科大学を母体として、昭和24(1949)年に新制大学へ移行。大学には法学、経済学、経営学、理工学、建築学、薬学、文芸学、総合社会学、国際学、農学、医学、生物理工学、工学、産業理工学の学部のほかに通信教育部、短期大学部がある。大学院、短期大学、工業高等専門学校や、附属施設として水産、原子力、人権問題などの研究所、附属病院、幼稚園、小・中・高校などを擁する総合学園。

建学の精神は「実学教育」と「人格の陶冶(とうや)」。教育の目的は「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人を育成」。本部のある東大阪キャンパスのほか、医学部のある大阪狭山、農学部の奈良、生物理工学部の和歌山など6つのキャンパスがある。

東大阪キャンパスではアカデミックシアターの完成で、「超近大プロジェクト」の第一期工事が完了。現在、第二期工事が進行中で、食堂や実験棟などを建設、2020年の完成を予定している。

住所 〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1 アカデミックシアター事務室
TEL 06-4307-3109
URL https://act.kindai.ac.jp/
E-mail a-jimu@ml.kindai.ac.jp
開館時間 5号館のビブリオシアターは8:45~22:00(夏季休暇など休暇期間は8:30~22:00)※休館日は日曜日、国民の祝日、年末年始
※2~4号館の利用時間はこちらをご覧ください。https://act.kindai.ac.jp/guidance/
利用できるひと 学生、教職員、卒業生、近隣居住者など一般公開利用に登録した人
蔵書数 約7万冊
総座席数 約2400席
面積 28,345.07㎡
開館年月 2017年4月


DONDEN「革命ごっこと戦争モード」。黒板アート前のソファには、熱心に本を読む学生さんの姿があった。


「近大生のためのハローワーク」の黒板アート。DONDENの黒板はやはりマンガのキャラクターを描く人が多い。


『綿の国星』→『もし犬が話せたら人間に何を伝えるか』→『春の数え方』──学生が考えたマンガから専門書へのDONDEN読みの一例。


DONDEN「動物の王国へようこそ」。『ぼのぼの』の世界を具現化。


冊数の多いマンガの収納には引き出し式の棚が大活躍。


ACTの「宇宙衛星・近大マグロ」。真ん中にあるのは、ドローンです!


ACT「KBSスタジオ」。NOAH33の「クラシックからロックまで」の棚の横にあるスペース。ここから放送局が学内放送をオンエア。


ACT「近大SATOYAMAミュージアム」。奈良キャンパスにある農学部の「里山修復プロジェクト」の成果物を展示。


ACT「エー・プラットフォーム スタジオ」では、建築学部の学生がつくった模型を展示。


ACT「学習サポートデスク」。文系3人、理系4人のTAが月~金で入れ替わり駐在。レポート作成から大学院進学に関することまで、学部生の学びをサポート。


ACT「近大デザイン・ラボ」。文芸学部文化デザイン学科の学生たちがここで数々の実験的プロジェクトを進めている。


ACT「STUDENT ONLY」。学生が打ち合わせやグループ学習で自由に使える部屋。アプリから予約ができる。


アカデミックシアター事務室もACT内にある。「毎日、フリーアドレスで仕事をしています」(岡)


就職活動などに役立つ本がそろった「キャリア支援図書コーナー」もACT内にある。


NOAH33の「学生とともにつくる棚」。アプリコットコンシェルジュによる棚づくりが見られる。取材時のテーマは「芸術」。


こちらはDONDEN内の「学生とともにつくる棚」。テーマは「性的マイノリティに関する本」。関連のマンガや新書などがズラリ。


図書カウンターにはあのヒューマノイドロボット、ソータ君! 館内を案内してくれるほか、年齢も当ててくれるんだとか。


ラーニングコモンズや自習室などの天井はオーガンジーに覆われている。柔らかな光や揺らぎを演出。


3号館の自習室は日曜日や祝日も24時間、開放されている。


4号館カフェにはおしゃれなテラス席もある。

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