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今号の気になる図書館員さん

佛教大学図書館
専門図書館員
飯野勝則さん

『大学ランキング2019年版』(朝日新聞出版)の大学図書館ランキングで、はじめて1位を獲得された奈良大学図書館に注目しています。

世界最古の印刷物とされる『百万塔陀羅尼経(だらにきょう)』や、『国富論』『種の起源』の初版本などの貴重書のコレクション、日本考古学協会から寄贈された6万冊を超える専門書の所蔵などが大学の教育方針にどのように関わるのか、ぜひ参考までにお話をうかがえればと思っています。

また近隣の高校生向けに「高校生のための自習開放」という試みなどもされていて、地域に根差した活動も気になります。

奈良大学図書館(1)奈良県奈良市

『大学ランキング2019年版』の「大学図書館ランキング部門」で初めて1位に輝いた、奈良大学図書館。1位になった反響や図書館の成り立ちについて、事務室の髙垣茂雅課長、そして司書の森垣優輝さんにお話をうかがいました。

図書館ランキング1位の反響は?

──『大学ランキング2019年版』で創刊以来25年続く「大学図書館ランキング」で725校中、1位を獲得されました。最大の理由はいったい何だったのでしょう?

髙垣:1位については、日本考古学協会さんからの6万冊を超える寄贈図書の受入が大きく影響していると思います。ランキングは学生1人あたりの蔵書数と受入、貸出、図書館費の4項目を指数化していて、私どもの図書館は今回、受入が最高値の100.00、総合的な指数評価も100.00でした(注1)

日本考古学協会さんは保存場所の確保などで管理が難しくなり、資料の所蔵先を探していました。当館が文化財専門書を多数所蔵しており、本学が歴史や考古学分野の教育研究拠点として評価されたこと、そして文化財専門職として全国で働いている卒業生が700人を超えていることもあり、今回、信頼を得られ、当館に一括寄贈となりました。

──ランキング1位と聞かれて、みなさん、びっくりされたのでは?

森垣:じつは『大学ランキング2019年版』の本が届く前に他館の方から1位になったと聞いていて、本が届くのを待ち構えていたんです。事前に聞いていなかったら、腰を抜かすところでした。

──反響はいかがでしょう?

髙垣:だんだん出てきています。ある先生は学生にせっかく1位になった図書館があるのだから、本を借りてレポート書きなさいって課題を出してくれたり、また国文学科の掲示板に「東大より上」とコメントを付けてランキングのページのコピーを掲示してくれたり(笑)。新聞社からも何社か取材を受けました。

──図書館の利用者は増えましたか?

森垣:この影響かどうかわかりませんが、昨年度のいまごろの数字と比べると増えています。

髙垣:来年は日本考古学協会さんからの寄贈図書の受入数が減るので、ランキング1位をキープできるかどうかわかりませんが、貸出などとの合わせ技で数字を伸ばしていければと思っています。

──では、奈良大学図書館の特長についてお聞かせください。

髙垣:図書館の特長は、大学の教育方針に合わせたところが大きいですね。まずは歴史学や文化財専門書が充実しているところ。蔵書数55万冊のうち文化財専門書は15万冊を超えています。本学は文学部と社会学部からなる学部構成になっていますが、文学部では、史学科と文化財学科を志願する人が多い。また国文学科、地理学科についても歴史学との関連性が深い。そして先ほども言いましたように文化財専門職で活躍している卒業生が全国に700人以上いるので、彼らが発掘調査報告書を大学に送ってくれるのも大きいと思います。

また貴重本の収集にも力を入れています。これは本物に“見る、触れる、聞く、感じる”という「生きた学問」を重視する大学の教育方針があるから。図書館の入口付近にある平安時代後期に製作された一対の金剛力士像がそれを象徴しているのですが、学生たちにいかに生きた資料に触れてもらうかということを念頭に置いて収集しています。閉架や保存庫という指定がないかぎり、貴重書の類であっても、開架に並べています。授業では貴重資料を多く扱っているので、学生たちが資料を雑に扱わないことはわかっておりますので。

そして奈良大学は、やはり奈良をフィールドにしているので、分野を問わず、奈良に関する資料は収集しています。歴史や文化財関連だけではなく、奈良県の行政や産業に関するもの、奈良出身の著者のもの、もちろん奈良大学の教員の著書など幅広く集めています。当館は基本マンガを扱っておりませんが、ここは例外。奈良出身の著者や奈良を舞台にしたマンガは収集しています。

──さて森垣さんは委託でこちらに来られているとのこと。ほかの図書館さんとの違いはありますか?

森垣:当館で大学図書館は6館目になりますが、学生の気質がぜんぜん違います。まじめで礼儀正しい学生の多さは、奈良大学は自分の経験の中では1、2を争います。貴重資料がわりと開架にあるのも体感していまして、来て間もないころ、満洲国で出版された本が普通に開架に並んでいるのを見つけて、びっくりしたこともありました。

貴重本を収集する理由

──世界最古の印刷物とも言われている『百万塔陀羅尼経』(注2)、アダム・スミスの『国富論』やダーウィンの『種の起源』の初版本などといった貴重書も多数所蔵されていますね。このような貴重書をいつから収集されているのですか? また収集される意図は何でしょう?

髙垣:図書館の予算配分で昭和52(1977)年度に特別集書枠として配分したのが始まりのようです。当初は学科間の境界領域や大きなシリーズものを購入する目的でしたが、次第に貴重書も購入するようになり、平成2(1990)年3月に貴重図書取扱内規を整備しています。それから初版本にこだわるのは、当時の学問に対する熱意を学生にはもちろん、研究者にも感じとってほしいから。初版本などの貴重書は開架ではなく保存庫に入れてありますが、『百万塔陀羅尼経』は1階の展示コーナーで見られます。世界最古の印刷物とされるこのお経は、藤原仲麻呂の乱(注3)で戦死した人々の菩提を弔うためにできたもの。お経に込められた当時の人たちの思いや祈りを感じとってほしいと思っています。


世界最古の印刷物とされる『百万塔陀羅尼経』。770年に完成し、法隆寺をはじめ10か寺に分置され、4万数千基現存するといわれている。2階図書カウンター横にある展示ホールで常設展示され、右の塔が本物で左の塔がレプリカ。

──近年の状況を考えると、貴重書購入のための予算を確保することは相当困難なことだと思うのですが。

森垣:これまで勤務した大学図書館の中では、貴重本のために毎年大きな予算枠をとっている大学は奈良大学だけですね。学内の理解があってのことだと思います。

──本年度は何を購入される予定ですか?

髙垣:今回は複製ですが、鎌倉時代末期の天皇である花園天皇直筆の日記、『花園院宸記』(注4)を購入する予定です。すでに半分揃えているので、これでようやく全巻揃います。

──貴重書を保存するのもたいへんなことだと思います。

森垣:湿度と温度を常に一定にして管理をしています。万が一、火事になったとしても不燃性ガスを注入して消火するようにしています。

髙垣:そこに人間がいたら死んでしまうくらいすごいものなんですよ。

森垣:3年に一度、殺虫のため燻蒸もしています。また当館には「北村コレクション(注5)」があります。大正から昭和期の奈良の文化人、北村信昭のもの。彼は写真館に生まれたため、写真もたくさん撮っていたので、コレクションの中にガラス乾板があるんです。相当重いものなので地震の揺れには耐えられるとは思うのですが、乾板が置いてある棚には張力を持たせたロープを展張し、落下防止テープを貼るなどして地震対策をしています。スタッフにはとにかく保存庫に入って作業をするときは細心の注意を払うよう、徹底して言っています。


(注1)2017年11月、全国の国公私立大学751校の図書館長宛てにアンケートを送付。18年2月上旬までに回答のあった725校分を集計した。各項目の数字は、奉仕対象学生1人あたりの蔵書冊数、受け入れ図書冊数、貸出数(学生)、図書館費についてそれぞれの最高値を100とし、指数化したもの。総合ランキングの指数評価は、各項目における指数を合計し、その最高値を100として指数で表した。
ちなみに奈良大学図書館は蔵書35.02、受け入れ100.00、貸し出し34.15、図書館費53.22、指数評価100.00だった。(『大学ランキング2019年版』(朝日新聞出版社)より)

(注2)称徳(しょうとく)女帝(在位764~770)の発願で、奈良諸大寺に納められた三重小塔百万基の小木塔に収納した陀羅尼(経文)。世界最古の印刷物として有名である。765年(天平神護1)より770年(神護景雲4)まで数年をかけて完成した。露盤の内部に陀羅尼一巻を納めたもの。(「日本大百科全書(ニッポニカ)」より)

(注3)奈良時代の反乱。恵美押勝の乱(えみのおしかつのらん)ともいう。760年(天平宝字4)の光明皇太后(こうみょうこうたいごう)死後、道鏡(どうきょう)を寵愛する孝謙太上天皇(こうけんだいじょうてんのう)と、藤原仲麻呂(恵美押勝)が擁立した淳仁天皇(じゅんにんてんのう)の関係が険悪化し、762年には太上天皇が国家大事・賞罰二権の掌握を宣言するに至る。764年、仲麻呂は太上天皇に申請して都督四畿内三関近江丹波播磨等国兵事使(ととくしきないさんげんおうみたんばはりまとうこくひょうじし)となり、管内の兵士の召集・簡閲(観閲)を認められた。しかしその数の改竄(かいざん)が発覚し、天皇の居所にあった天皇権力の象徴である鈴印(れいいん)を太上天皇側に奪われ、近江へ逃走する。道中で塩焼王(しおやきおう)を偽立して今帝(きんてい)としたが、追撃を受け、近江国高島郡勝野鬼江(かちののおにえ)で斬殺された。乱後、淳仁天皇は淡路(あわじ)に幽閉され、孝謙太上天皇が称徳天皇(しょうとくてんのう)として重祚(ちょうそ)する。(「日本大百科全書(ニッポニカ)」より)

(注4)花園天皇の日記。1310年(延慶3)10月から32年(元弘2)11月まで、断続的ながら記されている。自筆本が伏見宮(ふしみのみや)家に伝存されてきたが、宮内庁書陵部に移管されたのち、35巻の巻子本(かんすぼん)に整理された。写本もあるが、写本によってのみ知られる記事はごくわずかで、原本散逸の時期が比較的早かったことを推定させる。史上まれにみる好学の天皇で、学問、文学、宗教、有職故実(ゆうそくこじつ)など万般にわたる卓見が随所にみられる。また自らその渦中にあった両統迭立(てつりつ)問題や、元弘(げんこう)の変など歴史上重要な記事を含み、貴重な史料である。(「日本大百科全書(ニッポニカ)」より)

(注5)奈良・猿沢池畔の写真館に生まれた文化人、北村信昭氏のコレクション。北村氏は地元紙の文芸欄などを担当して志賀直哉、武者小路実篤らと交流し、パラオの民俗などにも造詣があった。コレクションの中身は奈良の昔の風景写真、手作り写真機、写真乾板、奈良の文芸同人雑誌、パラオの文物など。

(つづく)


インタビューに答えていただいた、図書館事務室課長髙垣茂雅さん(左)と司書の森垣優輝さん。背後にあるのは図書館のシンボル、仏法を守護する神、金剛力士像一対。右側が308.8㎝の阿(あ)形、左側が282.6㎝の吽(うん)形。平安時代後期のもので杉材の一木造り(いちぼくづくり)。現在は両腕、両足首ともに失われている。

奈良大学図書館

地上3階、地下2階、総床面積5,444㎡の規模を持つ図書館。蔵書数は約55万冊。貴重書の収集にも力を入れており、世界最古の印刷物とも言われている『百万塔陀羅尼経』やアダム・スミスの『国富論』初版本、ダーウィンの『種の起源』初版本などを収蔵。また地元奈良関連の資料や都道府県史も充実している。2014(平成26)年に日本考古学協会より、6万冊を超える文化財研究の専門書の一括寄贈先として選ばれて受け入れたため15万冊を超える文化財専門書が揃った。
そして創刊25周年を迎えたAERAムック『大学ランキング2019年版』(朝日新聞出版)の「大学図書館ランキング」では、国際基督教大学、東京大学をおさえて1位を獲得した。

奈良大学

1925(大正14)年に設立された南都正強中学に端を発する奈良大学。創立者薮内敬治郎(やぶうち・けいじろう)氏の「国のまほろば奈良は、日本の奈良であり、世界の奈良である。この地に大学をたて、世界的視野を持つ人間を育成する」という願いに基づき、1969(昭和44)年文学部国文学科・史学科・地理学科の3学科を擁する大学として開学。1979(昭和59)年に文化財学科が増設。そして1988(昭和63)年に社会学部を増設し、現在のキャンパスに移転。2005(平成17)年、通信教育課程の文化財歴史学科が開設された。日本ではじめて本格的な都が置かれた地、奈良という歴史的風土を背景に、本物を“見る、触れる、聞く、感じる”「生きた学問」に取り組んでいる。

住所 〒631-8502 奈良市山陵町1500
TEL 0742-44-1251
HP http://library.nara-u.ac.jp/
E-mail library@aogaki.nara-u.ac.jp
開館時間 月~金 9:00~19:00(短縮開館時 9:00~16:30)、土曜日 9:00~17:00(短縮開館時 9:00~12:00)
利用できるひと 学生、教職員、卒業生、近隣居住者、「高校生のための自習開放」など一般公開利用に登録した人 ※2018年夏の「高校生のための自習開放」についてはこちらを参照してください→http://library.nara-u.ac.jp/libn/libn2018-07-06.html
蔵書数 約55万冊
閲覧席数 約388席
延床面積 5,444㎡
開館年月 1969年4月


13世紀にドミニコ会士バルブスによって書かれたラテン語の辞書『カトリコン』。1460年、活版印刷の父、グーテンベルグによって印刷されたもの。


1471年刊のトマス・アクィナス『任意問答討論集』。アルノルト・ヘルネンのケルンの印刷工房で印刷された初版本。ヘルネンは頁数を最初に記入した印刷者として知られる。


1776年に刊行された、アダム・スミス『国富論』初版。原題は「諸国民の富の性質と原因に関する一考察」。資本主義社会を初めて体系的にとらえた。


1755年にロンドンで刊行されたジョンソン『英語辞典』初版。英国初の学術的語学辞典。


1727年刊のドイツ人医師・ケンペルによる日本風物詩『日本誌』初版。写真は同書に掲載された日本地図。


1859年刊のダーウィン『種の起源』初版。ロンドンで出版された。


1762年刊のルソー『社会契約論』初版。フランス革命、アメリカ独立革命に大きな影響を与えた。


『日本書紀』慶長勅版。江戸時代はじめの1610年(慶長15)刊。


奈良絵本の中面。室町後期の作品だが、挿絵が鮮やか。


1753年(宝暦3)刊の奈良絵本『花鳥風月』。奈良絵本の表紙には、決まって紺紙に金泥で草花が描かれている。


『伊勢物語』の注釈書。1400年代末から1500年に刊行されたもの。

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