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今号の気になる図書館員さん

広島市立中央図書館
管理課
畠中由希子さん

瀬戸内市民図書館は市民参加の「としょかん未来ミーティング」を経て、市民の意見を取り入れながら平成28年6月に「持ち寄り・見つけ・分け合う広場」をコンセプトに開館した新しい図書館です。

NDC(日本十進分類法)にこだわらない利用者目線の配架構成や地域に根ざした事業の開催など、参考にしたい要素が盛りだくさん。

開館してから現在まで、その名の通り市民のための広場として、どんどん輝きを増している瀬戸内市民図書館をぜひ紹介してください。

瀬戸内市民図書館 もみわ広場(2)岡山県瀬戸内市

2016年6月にオープンした瀬戸内市民図書館。たった1年半ですが、すっかり市民のみなさんに根付いているようです。図書館の特色とは? 利用者目線の配架構成とは? 今回は気になる図書館の中身について嶋田学館長にお話をうかがいました。

日常的に郷土資料に触れることの大切さ

──では図書館の中身に入っていきたいと思います。まずは「せとうち発見の道」という展示コーナーが目を引きます。

地域・郷土資料の展示スペースです。図書館が建っているこの土地には以前、郷土資料館が建っていました。今回、郷土資料館を併設して網羅的にお見せするというかたちではなく、図書館のスペースのなかで本と博物資料という“モノ”を融合的に見ていただくというスタイルを取りました。郷土資料館は年間の来館者が1000人ちょっとでしたが、いま図書館は一日平均約550人の方が来館されています。自然に瀬戸内の郷土資料に触れていただけていると思います。

──床下に土器が展示されていたのでびっくりしました。

じつは、図書館と隣接する中央公民館が建っているこの敷地は「助三畑遺跡(すけさんばたいせき)」にあたっているんです。昭和57(1982)年、公民館建設に先立って発掘調査が行なわれたとき、2000年前(弥生時代中期)の土器が出土しました。床下の展示はその様子を再現しています。

瀬戸内市は1万年以上も前から人が住み始めて、2000年前の土器が今もちゃんと残っている。ということはこれから先も長く、住みよいところである蓋然性は高いですよね。その土地になんとなく住んでいるのと、こういう街なんだと理解して住むのとでは、地域に対する愛着がまったく違うと思います。山を切り拓いて100年前にできた街と、2000年以上前に人が暮らしていた痕跡がきちんと残っている街はどう違うのか。図書館へ足を運ぶことによって自分が住んでいる街を市民のみなさんにわかっていただく、地域の文化や誇りとなるものに日常的に触れていただく、郷土資料の展示はすごく有効だと思います。

郷土資料とともに、いまは使われていない古いアルミ製のお弁当箱や、豆炭あんかといった生活民具も展示しています。高齢者の方々がそれを見て会話をしたり、お孫さんにそれを使っていたときのことを話されたりして、館内でもたくさんの交流が生まれています。また月一回、15か所の高齢者施設に移動図書館でお邪魔しているんですけれども、そちらにもっていくと、みなさん、言葉がどんどん出てくるんですよね。いわゆる回想法という心理療法なんですが、認知症の予防になったり、症状が進むのを遅らせたりする効果が医療のほうでも検証されています。

──竹田喜之助(たけだ・きのすけ)の展示ギャラリーというコーナーもあります。

竹田喜之助(1923~1979)は世界的に有名な糸操り人形師で、邑久(おく)の出身です。喜之助の偉業を紹介しようと、彼がつくった人形を展示する「喜之助ギャラリー」を1階につくりました。また多目的ホールでは8月を除く(隣の中央公民館で大きな人形劇フェスティバルがあるため)毎月第二日曜日の午前10時半から、アマチュア劇団が人形劇の定期公演をしています。全国の公共図書館で毎月人形劇を上演しているのは、たぶん当館だけだと思います。

──書架がゆったりとしていてシンプルで見やすいと評判です。

開架の棚は12万冊入るようになっているのですが、現在は10万冊に届くか届かないか……ゆったり見やすいのは蔵書がまだ少ないということもあると思います。ただ今後本が増えても全部、背表紙だけ見せる棚差しではなく、フェイスアウト(表紙見せ)はきちんと維持しようと思っています。

──利用者目線の配架構成はオリジナルなのですか?

日本の多くの図書館は日本十進分類法(NDC)を用いているので、たいていの館では0類から9類まで本が順番に並べられているのですが、あくまで分類法なのでその分類番号順に並べなくてはいけないということではありません。当館は2階構造なので、利用頻度などを考えてゾーニング(配置)しながら関連するものを集めて棚をつくっています。

たとえば1階の利用頻度の高い「暮らし」の本。ここには料理とか手芸とか家政学だけではなく、インテリア、ペット、認知症、防災関係、社会保障系の本も並んでいます。またNDCでいうと7類の芸術スポーツ系の趣味の本に区分される囲碁とかお茶とかお花の本、そして本来は1類の哲学に入る斎藤茂太さんの著作のような人生訓的な書籍は、「前向きに生きよう」という連見出しをつけて暮らしの本のジャンルに取り入れています。

そのほか、瀬戸内市の基幹産業である農業とビジネスマナー、マーケティングといったものを「仕事」というジャンルでくくったり、介護と医療を近づけたり、NDCの中だけでなく、地域の特色も考えて、親和性のあるものを集めてゾーニングしています。

──ほかに書架について工夫されていることはありますか?

連見出しについては市民のみなさんとのコミュニケーションツールと考えて、とくに手をかけてつくっていますね。書架の側板は「料理」とか「闘病記」とか、一般的な言葉を用いてどういうジャンルの本が並んでいるかわかるようにしていますが、(書棚の途中に入れる)差し込み見出し板には「愛情いっぱいお弁当」とか、「お母さんが笑ってるのがいちばんいい」とやさしく語りかけるような言葉を掲げています。ベテラン司書がまずたたき台をつくって、それをみんなで意見を出し合いながら仕上げていきました。


寒風(さぶかぜ)陶芸会館とのコラボレーション「寒風としょかんタイルプロジェクト」。市民が思い思いに製作した3200枚以上のタイルが図書館南側壁面を飾る。ちなみに寒風は牛窓地区にあり、約1400年前に備前焼のルーツである須恵器(すえき)を焼いた場所。

市民の市民による市民のための広場へ

──選書についてお聞かせください。

我々のような中小公共図書館はあまり図書購入費をもっていないという場合もあるので、文学ではベストセラー、一般書では入門書的なもので、価格的にも買いやすいもの、つまり利用される本を選びがちです。しかしそのような本ばかりを買っていくと、棚はメリハリのないものになってしまいます。だから我々は難易度に関しても取り扱っている主題の範囲に関しても、本選びはできるだけ広く、を心がけています。その本が利用されるような展示をするとか、その本のテーマに関する講演会を企画するとか、本を手に取ってもらえるのは図書館員の工夫次第だと思っています。

ジュンク堂で多数の有名店舗の店長をつとめた福島聡さんが、「売れないけれど看板替わりに置く本がある」というようなことをおっしゃいっています。利用される頻度は低いかもしれないけれど、象徴的な本があることで、その図書館の棚は魅力的に見えます。図書館員がうちの市民はこんな本は利用しないのでは、と住民の知的なレベルを一括りにしてみくびることは、いちばんやってはいけないことだと思います。

──健康医療情報に力を入れておられます。

自分が実際に患者になったり、家族が患者になったりすると、普通の一般書では物足りない。日本医書出版協会がつくる目録を見るなどして、看護師や研修医の方が参考にされるレベルの本で、価格帯でいえば3000円とか4000円ぐらいのものでも購入するようにしています。

一方で、病気といえばどうしてもネガティブになりがち。選択する情報がたくさんあっても自分ではなかなか選ぶことができません。自主性をもって立ち向かうためにはそれをサポートする図書館司書の役割が非常に重要だと思います。そう考えて、パンフレットを置いたり、医療者に講話をしてもらうセミナーを始めたりしています。また患者や家族の方が書かれた闘病記の収集にも力点を置いています。この病気の場合、どういうプロセスをたどるのか、患者、家族はどういう思いを抱くのか、という医療者にはわからない世界を知ることができるからです。

──認知症に特化した棚もできたんですね。

厚生労働省の推計によると、2025年、認知症患者は700万人を突破、65歳以上の5人に1人が認知症になると想定されています。決して他人事ではない、と今年6月に認知症の棚をつくりました。まず認知症の方に対する理解を深め、差別や偏見をなくすということ。そして自分が認知症になったときにいかに自分らしく生きるかということ。福祉機関に行く前に身近な図書館で情報に出会っていただくことが大事だと思います。認知症サポーターの養成講座も始めています。

──放送大学のテキストもそろえているそうですね。

邑久高校という県立高校が隣接しているのですが、大学でどんな勉強をするんだろうという気持ちで高校生たちに気軽に触れてほしいので、テキストを全点購入しています。放送大学だと科目単位で履修できるので学費も安いですし、正規の学位も取れます。卒業に何年かかっても大丈夫です。また実際に放送を見られるブースもつくり、大学のご厚意で年に2回出前講座を開催してもらっています。

──高校と連携を強める理由とは?

一般的に小中学校は、基礎自治体の所管の機関ですので、小中学校の図書館に公共図書館が資料を支援するというシステムが成り立っています。しかし高等学校は都道府県の管轄です。

邑久高校は現在、在校生が徐々に減少しています。町に唯一ある高校ですので、ぜひ活性化させたいと、高校の魅力化アップ事業の検討委員会に私も入れていただき、年に四回程度会議にも出させていただくようになりました。またたとえばビブリオバトルを図書館で開催するとか、図書委員のみなさんと連携して本の企画展示をするとか、そういうことを今後も頻繁にやっていきたいと思っています。

──1階入口付近に飲食できるコーナーがありますね。「としょかん未来ミーティング」でもカフェがほしいという意見があったそうですが、将来的にはつくられるのでしょうか?

当初、事業者に入ってもらうことも検討したのですが、そんなに広くないところで食べ物を出すとなると、テーブルが要るのでスペースが足りない、飲み物だけだと採算がとれない。それで結局、自動販売機を設置することで落ち着きました。

ただ作ったものを売ることはできるだろうということで、私たちのほうから障がい者の自立支援協議会に呼びかけをして、障がい者の方がつくったパンとかお菓子とかを月一回、販売していただくことになりました。障がい者の方も販売に来てくださるんで、ここで市民のみなさんと出会っていただく。市民のみなさんにノーマライゼーションの大切さを知っていただくためにも、一日でも多く営業されているのが、私たちとしてはうれしいんですね。

──市民との図書館づくり、まだまだ続きますね。

市民のみなさんの意見が少しずつ形になってできた図書館です。開館してからもみなさんにさまざまなプロセスで関わっていただきたい。いろいろな声を聴いて調整してやっていくのはたいへんですが、一日一日、この図書館が瀬戸内市民の図書館になっているな、という実感はありますね。

(おわり)


館長候補としてやって来た嶋田館長がまず行なったのは、子ども向けの移動図書館サービス。子どもたちに本を借りる習慣を身につけてほしいとの思いから、月に1回、幼稚園、保育園などを訪問。現在は高齢者福祉施設にもサービスを提供している。

瀬戸内市民図書館 もみわ広場

「持ち寄り・見つけ・分け合う」をメインコンセプトに、瀬戸内海を望む岡山県瀬戸内市に2016(平成28)年6月にオープン。瀬戸内市出身の糸操り人形師・竹田喜之助を顕彰するギャラリーや郷土資料の展示スペース「せとうち発見の道」を併せ持つ多機能型図書館。開館に向けて6年間、ワークショップを開催するなど市民とともにすすめた整備計画、幼児や高齢者のための移動図書館サービスや郷土資料の展示など、これからの公共図書館の在り方のモデルを示したと高く評価され、2017年のライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞。

住所 〒701-4221 岡山県瀬戸内市邑久町尾張465-1
TEL 0869-24-8900
URL https://lib.city.setouchi.lg.jp/
E-mail tosho@city.setouchi.lg.jp
開館時間 火・水・土・日・祝日は10:00~18:00、木・金10:00~19:00
※休館日は月曜日(ハッピーマンデーを含む)、祝日(ハッピーマンデーを除く)直後の平日、毎週最終水曜日(祝日の時は前週水曜日)、年末年始、特別整理期間
利用できるひと 瀬戸内市在住・在勤・在学者は館外貸出可能
蔵書数 約20万冊
閲覧席数 200席
面積 2384.19㎡
開館年月 2016年6月


瀬戸内市が誇る世界的な糸操り人形師、竹田喜之助のギャラリー。人形の展示のほか、DVDの上映もある。


喜之助のデッサンとともに糸操り人形を展示。


昭和8(1933)年に発見された弥生時代の集落遺跡「門田(かどた)貝塚」。その発掘調査で現れた貝塚の断面をはぎ取って作成されたパネル。


1階の床下展示では「助三畑遺跡」の出土状況を再現。土壙(どこう)から出土した土器は壺、甕など多様で墓の上に置いた葬祭品とみられる。


お櫃、そろばん、お弁当箱といった昔懐かしい品物も展示。


書架側面展示にも郷土資料を配置。瀬戸内の虫明(むしあけ)焼、備前焼が展示されていた。


1階、「こどものほん」コーナー。約4000点の絵本がある「えほんコーナー」、洞窟のようなつくりの「おはなしのへや」がある。


1階、「暮らし」コーナーに設置された「認知症にやさしい本棚」。


2階の「健康・医療情報」コーナーには、「闘病記」というジャンルもある。


2階、ティーンズ向けチャダルト(チャイルド+アダルト)ガレージ。いろんな分野の入門書、コミック、ライトノベルなど多種多様な本が並ぶ。


チャダルトガレージにある放送大学テキストコーナー。パンフレットが置かれ、放送スケジュールもチェックできる。


2階、チャットルーム。ゲームをしても勉強しても何をしてもよい。子ども編の「としょかん未来ミーティング」での意見を採用。


2階のミーティングルーム。読書会、お話ボランティアなどに利用される。普段は閲覧、学習スペースとして開放。


2階の窓際にあるインターネットコーナー。8台のパソコンが並んでいる。


2階、調べものカウンター。レファレンス担当の司書が常駐。高く掲げられた案内サインが効いている。


図書館のホームページで連載している「全国津々浦々図書館員の本棚数珠つなぎ」で紹介された本を館内で展示。


邑久町出身の現役漫画家、内海瀬戸(うつみ・せと)さんの講演会開催の前にコーナーを設置。高校2年生で新人賞を受賞。


1階、カフェカウンター。奥に自動販売機を設置。毎月第4土曜のパンやお菓子の販売は、すぐに完売するという人気ぶり。

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