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今号の気になる図書館員さん

神奈川県立川崎図書館
司書
菅井紀子さん

私は、自然科学・工学・産業技術の資料を多数所蔵する図書館の司書です。

JAMSTEC(ジャムステック)は以前から講演会等でお世話になっている研究機関ですが、当館刊行物の取材で図書館にうかがい、海洋、地球科学関連の一般書、雑誌、科学絵本などのコレクションを拝見して、自機関の研究成果を社会に還元する役割も担っていることがわかりました。誰でも利用できる気軽さに加え、公開セミナー関連資料展示などの取り組みも印象に残りました。

職員の研究・業務支援と一般向け業務、特性の異なる利用者サービスにはさまざまな工夫をされているのではないかと思います。多様な機能を果たすためのノウハウの一端などをご披露いただけるとうれしいです。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)横浜研究所 図書館(1)神奈川県横浜市

人類史上初めてマントルや巨大地震発生域への大深度掘削調査を可能にした地球深部探査船「ちきゅう」が話題となったり、2017年夏に国立科学博物館で開催された特別展「深海2017」は連日大入り満員になったり……その活動が注目されている海と地球の研究所、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)。横浜研究所にある図書館は、職員向けだけではなく、一般向けの機能もあるんだとか。今回は図書館員の長尾典子さんに、JAMSTECのこと、図書館のコンセプト、そして図書館員のお仕事についてお話をうかがいました。

職員向けと一般向けの2つの顔を持つ図書館

──インタビューの前に職員専用図書館と、一般開放図書館をめぐらせていただきました。一般開放図書館の「深海デブリ」(深海に沈んだ人工的なゴミのこと)の展示、興味深かったです。

JAMSTECでは、2017年から「深海デブリ」のデータベースを公開しています。スーパーの袋やマネキンの首、冷蔵庫に炊飯器……なんと深い深い海の底にも、人間が捨てたゴミがごろごろ落ちているんです。なかには魚たちの住み処となって役立っているものもありますが、生き物たちが食べたら有害なものもあります。デブリを知ることで海の環境問題を考えてほしいと思っています。一般開放図書館内で実施した、関連図書とデータベースの紹介、そして深海底にあったデブリ実物を合わせた1月の展示は、多くの反響がありました(取材は2月1日に実施)。

──展示の内容はどうやって決められるのでしょうか?

図書館の展示は、地球情報館の第三土曜日の休日開館日に行なわれる一般向け講演会「公開セミナー」のテーマと連動しています。この公開セミナーの講師はJAMSTECの研究者や技術者が務めています。1月のテーマが「深海デブリ~データベースで見る深海の姿」でした。今回は関連部署から借りたデブリの実物を中心に、セミナー講師の著作や、講師推薦の参考文献など、テーマに関連する資料を展示しました。


月一回のセミナーと連動した企画展示。今回は海洋デブリ、海の環境問題等、セミナーテーマの関連図書が上級、中級、初級に分けて展示、セミナーの講師の著作や参考文献などが並ぶ。月一回発行している図書通信「Library Communication」でも関連図書を確認することができる。

──では海洋研究開発機構、JAMSTECについてお聞かせください。

前身は1971(昭和46)年に設立された海洋科学技術センターです。2015年に、海洋・地球・生命の統合的理解を目指して研究および技術開発を行なう国立研究開発法人となりました。地球科学、生命科学全般を研究対象としていますが、特に海を起点としているところがポイントですね。研究船や潜水調査船、無人探査機などのさまざまな調査機器を使って、広く深い海を調べ、海や地球のなぞ、人類が抱えている問題に貢献するための研究をしています。本部は横須賀で、ここ横浜研究所のほか青森県むつ市に「むつ研究所」、高知県の南国市に「高知コア研究所」、沖縄県の名護市には「国際海洋環境情報センター」、それに東京事務所があります。

──図書館の特長を教えてください。

JAMSTECに所属する職員、つまり研究者には研究に、技術者には技術開発に、事務職員にはそれぞれの業務に、必要な資料を探し提供するのがメインの業務です。また、公的に運営される国立研究開発法人として、その成果を国民に還元しなければならないという大きなミッションもあります。JAMSTECの研究および技術開発を広くご理解いただくために、職員の研究成果に関する著作物とともに、自然科学全般に関する広い知識を得るための一般書や児童書も所蔵し、この横浜研究所地球情報館2階の一般開放図書館で提供しています。

──図書館は横須賀の本部にもあるんですよね。

はい。横須賀本部にはJAMSTEC設立当初からある図書室がありますが、基本的には職員専用で、一般開放はしていません。

横浜研究所が開所されたのが2002年。スーパーコンピュータ「地球シミュレータ(注1)」が完成したときでした。

地球情報館はJAMTECが行なっている研究や観測によって得られたデータ、映像を通じて、近隣や一般の皆様に親しんでいただくための施設です。そしてその2階に一般開放図書館が設置されました。科学コミュニケーションを意識して、小さいお子さんから大人の方まで、科学技術に親しんでいただけるよう、専門書だけではなくJAMSTECの研究分野に関連する一般書、科学絵本や図鑑などの児童書もできるだけ幅広く収集し、企画展示やニュースレターの作成などにも積極的に取り組んでいます。なお、3階には職員専用図書館があります。

──職員専用図書館は24時間対応なんですね。

JAMSTECの職員はカードキーで24時間、すべてのJAMSTEC図書館に出入り可能です。研究者の頭脳は、ある意味24時間稼働ですから、図書館員が不在の夜間や早朝でも利用できるようになっています。また、電子媒体の資料収集に努め、来館せずに必要な資料を利用できる仕組みをつくっています。

──2階の一般開放図書館はどんな方が利用されるのでしょうか?

ここは住宅地の中にあり公共図書館が遠いからか、周辺地域に住んでいらっしゃる方が多いんです。海洋科学技術および地球科学関係の図書がまとまって利用できるため、研究者の方や卒論を控えた学生さんもいらっしゃいますね。また、関連企業の方や、海の番組や科学番組をつくっているテレビのディレクターの方が来館されることもあります。近所の保育園の園児たちのお散歩コースにもなっているらしく、児童書コーナーで先生が科学絵本を読み聞かせされたりしていますね。夏休みには、遠方から深海生物が大好きなお子さんをご両親が連れて来られました。その子は朝から夕方までいてくれました(笑)。うれしかったですね。

また、横浜研究所のある金沢区内の読書関連施設が連携して行なっている「金沢区読書プロジェクト」というイベントに、当館も「読書マラソン」で参加させてもらっています。「読書マラソン」とは、借りた本を返却するときに感想コメントを書いてもらい、いただいたコメントを館内展示するというイベントです。3年前に横浜市金沢図書館にお声をかけていただいて参加することができました。金沢区は公共図書館をはじめとして、当館のような研究所、史料館、大学、地域のコミュニティセンターや保育園内の図書室など、バラエティに富んだ読書関連施設があります。そんな地域の図書館と、はじめて横のつながりを持つことができたんです。

当館は基本的に平日しか開館していないのですが、月1回の第三土曜日は地球情報館の休日開館日で、さきほどご案内した「公開セミナー」のほかにもイベントが実施され、親子連れや学生さんなど、平日には来館できない方がたくさん来館されます。イベントの一つであるクイズラリーの問題のうち一部のヒントは図書館の本から探すことになっているので、参加する方はみなさん図書館に寄られるんです。イベントと連携した効果もあって、図書館の来館者数は、第三土曜日だけで毎月のべ200名を超えるようになりました。

── 一般利用者に図書の貸出はされているんですか。

はい。貸出申請書にその都度連絡先などの必要な情報を書いていただく方式です。この貸出申請書は、図書返却の1か月後に廃棄します。利用者カードは作成していません。図書館管理システムに一般利用者の個人情報を蓄積しないようにするための方法です。貸出期間は1か月で、月1回の第三土曜日休日開館日にしか来館できない方にも気兼ねなく図書を借りていただけるように、長めに設定しています。また、きれいな科学系仕掛け絵本や図鑑など、公共図書館ではあまり貸出をしていない資料が貸出できるのも好評で、一般利用者への貸出冊数は、年々増えてきていますね。

研究活動を支える図書館業務

──現在、図書館の職員は何人いらっしゃいますか?

司書8名、事務担当1名の計9名です。図書館業務は、JAMSTECの研究推進部研究推進第2課の複数ある業務のうちの1ラインとして行なっています。図書館業務は、図書、雑誌、ILL(図書館間相互貸借)、機関リポジトリ(自機関で生み出された学術雑誌論文をはじめとする知的生産物を、電子的な形態で保存・公開するシステムのこと)、学術出版、閲覧、事務の7ラインの業務を数人ずつが重複して担当します。

それぞれの業務について横須賀と横浜の両拠点を担当しますので、例えば私の本務地は横浜研究所の図書館ですが、週に2回は横須賀本部図書室にも勤務しています。9名が両拠点を行ったり来たりしながら仕事をするという体制になっています。

──2つの図書館を行ったり来たり……コミュニケーションをとるのが難しくありませんか。

月に一度、ミーティングの場を設けています。その日は横須賀のスタッフも全員横浜に集まります。横浜研究所図書館は2階を一般開放しているため無人にはできないのですが、横須賀本部図書室は職員専用で、図書館員が不在でもカードキーで入れるようになっているんです。

私がJAMSTECに採用されたのは10年前の2008年4月でした。それまではJAMSTEC図書館は業務委託で運営されていました。

──職員の反応は?

10年前は、現在から考えると必要な資料を必要な利用者に十分に提供できていない状態だったと思います。まずはJAMSTECに必要な資料をきちんと収集・整理・保管して、必要な利用者にきちんと提供する仕組みをつくるため、図書資料の目録の再整理を行ないました。「どんな資料が」「どこに」あるのか、「借りられているのかいないのか」「どのような経緯で入手したのか」がわかる、一貫性のあるデータに整えていきました。並行して、利用者の希望や利用動向を把握する仕組みをつくり、ニーズに沿った電子資料の選定やサービスの充実を図るなど、環境整備を行ないました。

一つひとつは地味な取り組みでしたが、積み重ねることで少しずつ利用が増えていきました。もちろん今も職員から信頼される図書館となるための工夫と努力を続けています。

── 一般開放図書館のほうはどうでしたか?

職員に対するサービス提供が図書館業務のメインだったので、2008年時点の一般開放図書館は、資料がとても少なかったんです。せっかく海洋地球科学に関する一般開放図書館という場があるのに、もったいないと思いました。JAMSTECの研究開発成果を広く一般の方に伝える目的を果たすために、イベント担当部署と連携するなどの工夫を重ね、少しずつ資料やレイアウトを整備してきました。


(注1)《Earth Simulator》日本が開発したスーパーコンピュータ。NEC製。JAMSTEC横浜研究所に設置され、平成14年(2002)に運用開始。平成16年(2004)まで世界最速の演算速度を誇った。大気・海洋を含む地球環境変動や、地球内部の地殻・マントルの動きなどの解明にむけた科学研究に用いられている。地球温暖化を予測するシミュレーションによって、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2007年ノーベル平和賞受賞に大きく貢献した。(「デジタル大辞泉」より)

(つづく)


インタビューに答えていただいた図書館司書、長尾典子さん。手に持っているのは、JAMSTECが発行している、海と地球の研究開発成果を発信する学術誌「JAMSTEC Report of Research and Development」(通称「JAMSTEC-R」)。図書館が編集事務局を担当している。

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)

海洋に関する基盤的研究開発等を行なう文部科学省所管の国立研究開発法人。英語名はJapan Agency for Marine-Earth Science and Technology、略称はJAMSTEC(ジャムステック)。1971年10月に認可法人海洋科学技術センターとして発足。2004年4月に独立行政法人化され海洋研究開発機構と改称。2015年4月、国立研究開発法人に移行。本部は神奈川県横須賀市。ほかに、横浜研究所(横浜市)、むつ研究所(青森県むつ市)、高知コア研究所(高知県南国市)の3研究所と、国際海洋環境情報センター(沖縄県名護市)と東京事務所(東京都千代田区)がある。

海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究における協力等の業務を総合的に行なうことで、海洋科学技術の水準の向上と学術研究の発展に資することが目的。研究部門、開発・運用部門、経営管理部門で組織され、研究部門は、地球環境観測研究開発センター、海洋掘削科学研究開発センター、地震津波海域観測研究開発センターなどを置く「戦略研究開発領域」と、大気海洋相互作用研究分野、 統合的気候変動予測研究分野などの研究を行なう「基幹研究領域」に分かれている。開発・運用部門には、海洋工学センター、地球情報基盤センター、地球深部探査センターなどを設置。また地球深部探査船「ちきゅう」、有人潜水調査船「しんかい6500」などの多くの研究船・探査機を運用。

2011年の東日本大震災の際、深海調査研究船「かいれい」が地震発生3日後に三陸沖の海底を緊急調査。広範囲にわたり大規模な海底変動が発生していたことを明らかにし、来るべき南海トラフ巨大地震に向け、「地震・津波観測監視システム(DONET)」を構築するなど、防災研究にも貢献している。


JAMSTEC 横浜研究所

地球環境変動の解明と予測、地球内部のダイナミクス研究、巨大地震・津波の発生メカニズムの解明を行なう拠点。スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を駆使した研究活動や地球深部探査船「ちきゅう」の運用を担う地球深部探査センターなどが業務を進めている。

住所 〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173-25
TEL 045-778-5476
URL http://www.jamstec.go.jp/j/pr/library/
OPAC http://www.jamstec.go.jp/opac/
機関リポジトリ http://www.jamstec.go.jp/jir/
E-mail library@jamstec.go.jp
開館時間 月~金10:00~17:00、
地球情報館を開館する第三土曜日10:00~16:00
利用できるひと 誰でも利用可、貸出は図書資料一人3冊まで、1か月間
蔵書数 約6000冊(横浜研究所一般開放図書館の図書所蔵数)
総座席数 約30席
面積 162㎡
開館年月 2002年


セミナーの様子。第三土曜日13:30~15:00に行なわれている。


深海デブリの実物(南海トラフから引き揚げられた製材)と関連図書を組み合わせた、一般開放図書館内の展示。


地球情報館のギャラリーで行なわれている「水中写真家 中村征夫(いくお)、深海へゆく~『しんかい6500』乗船の記録~」関連の展示。


一般開放図書館内には、図書通信「Library Communication」のバックナンバーがあり、自由に持ち帰ることができる。


この秋から冬にかけて実施された「読書マラソン」のコーナー。子どもから大人までたくさんの感想文が寄せられた。


一般開放図書館の壁面展示架には科学絵本がずらり。第三土曜日の開館日は親子連れがたくさん訪れる。


児童書コーナーには、仕掛け絵本も多数所蔵している。


児童書コーナーの「しんかいせいぶつ・さかな」と「かせき・いきもの」の棚。図鑑が借りられるのもうれしい。


一般開放図書館は、海洋、地球科学を中心に、自然科学全般に関する図書を収集、提供している。


「ニュートン」、「ナショナルジオグラフィック」などサイエンス系の雑誌が一度に読める。


一般開放図書館の、地震関連図書の書架(一部)。東北地方の出版社が刊行した東日本大震災関連図書なども、手に取って見ることができる。


東日本大震災が起きてから1か月間の新聞は大切に保存してある。

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